かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
「でしたら副社長も早くご結婚されてはいかがですか? 社長に何度もお見合いを勧められているじゃないですか」

 そうだったんだ。でもそうだよね、だって誠司君は会社の後継者。お義父さんからしてみたら、早く結婚して後継ぎを……って思っているのかも。

 私たちも結婚式当日、早く孫の顔を見せてくれなんて言われちゃったくらいだし。

 口を挟むことなく、お肉を食べながらふたりの会話に耳を傾ける。

「見合いは、どうも気が進まなくて」

 だいぶ酔っているようで、誠司君は頬杖をつきながら話し出した。

「会社のためにも早く結婚したほうがいいことはわかっているんです。でも将生と小毬を見ていると、俺も唯一無二の存在と出会い、結婚したいって思っちゃうんですよ」

 誠司君の意外な本音に箸が止まる。

「出会いは突然訪れるかもしれないじゃないですか。あぁ、結婚するならこの子だって思えるような、ドラマチックな出会いが」

 いつになくロマンチックなことを言う誠司君に、山浦さんはクスリと笑った。

「そんな出会いが副社長に訪れるといいですね。……できるだけ早くに」

「あ、その顔……。山浦さんは出会えるわけないって思ってますね?」

「いいえ、そんなことはございません」

 ふたりの軽快なやり取りに頬が緩む。

 誠司君がこんな話をできるのも、山浦さんのことを信頼しているからだろうな。

 心をポカポカさせて再び食べ進めていると、誠司君は私にも聞いてきた。
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