かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
 昔から勉強もスポーツも、なんでもソツなくこなす将生は料理上手でもある。今も手際よく厚焼き玉子を皿に盛り、漬け物を切って味噌汁の味見をしている。

 キッチンはおいしそうな香りで包まれて、寝起きなのに正直なお腹は空腹を訴えた。

 すぐにお腹を両手で押さえたものの、ばっちり聞かれてしまったようで将生は「クククッ」と笑う。

「待ってろ、すぐ食べられるようにするから」

「……ありがとう、手伝うね」

 居たたまれなくなり、おかずが盛られたお皿を手にキッチンからそそくさと出た。

 テーブルに並べ、ふとキッチンを見ると将生が味噌汁をお椀に注いでいる。これまでのことを考えたら、信じられない光景だ。

 いや、それを言ったら私もだ。将生のことなんて大嫌いだったはず。それなのにこの前、キスを受け入れてしまったのだから。


 その後のことを思い出すと、顔から汗が吹き出しそうなほど恥ずかしくなる。

 これまで何度も将生に抱かれてきた。なのになぜか初めての時以上に緊張して恥ずかしくて、たまらなくなってしまったんだ。

 キスされるたびに好きだと言われているようで、彼の手が身体に触れた瞬間、羞恥心でいっぱいになった。

 あれ以上行為に及んでいたら、間違いなく私の心臓は止まっていたと思う。

「小毬、運んでくれる?」
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