かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
「近場にいる同期たちと集まって飲み会やろうって話しているんだ。決まったら荻原のことも絶対誘うから、そこで教えてよ」

「わかった、考えておく」

「あぁ、考えておいて。おいしい店探しておくから」

 白い歯を覗かせて笑う野沢君につられて、私も笑ってしまった。

 秘書課で話せるのは山浦さんだけで、その山浦さんも多忙で業務上の話しかしていない。

 入社するまでは、社会人になってからの夢や憧れをいろいろと抱いていた。同期とはもちろん、先輩たちとも打ち解けて、昼休みや仕事終わりに食事に行って、相談とかしちゃったりして。

 仕事をするということは大変なことだ。でもそれだけではなく、人間関係を通して楽しいこともあると思っていたけれど……現実は理想通りにいかないもの。

 だけどこうして気にかけてくれる同期がいて、敬子という存在もできた。なにより働くことができることに感謝しないとだよね。

 ちょうど会社に着くと玄関先で営業部の先輩に声をかけられ、野沢君は「またな」と言って先輩と先にエレベーターに乗っていった。

 仲良さそうに先輩と話しているのを羨ましく眺めながら、私も別のエレベーターに乗りオフィスへと向かった。
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