極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
「なに言ってるの? そんな未来は絶対にこないからね? ……さっきのだって社交辞令で誘ってくれただけだよ」

 冷静な私に対し、ふたりは「えー、そんなことないと思うよ」とか、「向こうもさくらに気があるんだって」なんて見当違いなことを言う。

「そんなわけないから。もうこの話はおしまい! ほら、閉店時間過ぎているよ。早く店を閉めよう」

 一方的に話を終わりにしてひとり、片づけに取りかかる。

 そうだよ、誘ってくれたのはただの社交辞令。本気で私と出かけるつもりはないよね。
 真に受けて期待したらだめ。がっかりして落ち込むのが目に見えている。

「お母さんは村瀬さん、嘘をつくような人には見えないけどなぁ」

「父さんもそう思うぞ?」

 だけどそう言いながら片づけを始めた両親に、心が大きく揺れてしまう。

 私だって村瀬さんは嘘をつくような人には思えない。もしかしたら本気で出かけるつもりで誘ってくれたのかもしれない。

 でも深い意味はなく、ただお礼がしたくてだと思う。きっと彼の中で私は、馴染みの弁当屋の娘でしかないと思うから。

 それなのに誘われるがままふたりで出かけたりしたら、私はますます村瀬さんのことを好きになるだけ。

 この気持ちが報われることはないんだもの。村瀬さんと出かけることができたとしても、つらい結果が待っているだけだよ。

 今の関係で十分。週に何度か会って些細な話ができればいい。密かに想いを寄せているだけでいいんだ。


 その後もなにかと両親から村瀬さんのことでからかわれ、そのたびに冷静に対処しながらも、心の中は彼に対する想いで大きく乱れていた。
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