極上御曹司の独占欲を煽ったら、授かり婚で溺愛されています
「それはよかったです」

 心の中では喜びを爆発させているわけだけど、それらをすべて顔に出したら一巻の終わりだ。

 喜びを最小限に抑えていると、急に村瀬さんは私との距離を縮めた。その瞬間、鼻を掠めたのはウッディの香り。それは時折、彼から香ってくる香水のもの。

 えっ、なっ、なに!?

 真っ直ぐに村瀬さんを見ると、目と鼻の先に彼の端整な顔があって息を呑む。

 いったい今、なにが起こっているのだろうか。……ものすごく距離が近い気がするのですが。

 私の頭の中はパニック状態。だけど当然村瀬さんは私の心の事情を知る由もなく、そっと顔を私の耳もとに寄せた。

「ここだけの話、店頭に並んでいるものより、さくらちゃんが作ってくれた厚焼き玉子のほうがおいしかった。……さくらちゃんの厚焼き玉子は世界一だよ」

「……っ」

 厨房にいる両親に聞こえないよう、そっと囁かれた声が耳に木霊してゾワッとなる。

 村瀬さんの声って重圧感のあるバリトンボイスで、囁かれると色気も増すからドキドキして仕方がない。

 完全に思考回路は絶たれ、ただ必死に胸の高鳴りを抑えていると、村瀬さんは店頭に並んでいる品物を嬉しそうに眺めた。
< 25 / 308 >

この作品をシェア

pagetop