My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4

「びっくりしたぁ。殿下に声掛けてもらっちゃった……」

 それを見送りながら思わずといった感じで彼女が呟くのが聞こえてしまった。
 目が合うとはっとした顔で彼女は頭を下げた。

「し、失礼しました。お食事を持ってまいりました」
「ありがとうございます」

 なんとなく親近感を覚えながら笑顔でお礼を言うと彼女はワゴンを持って部屋に入ってきた。
 ふわっとした長い髪をひとまとめにしたその子は緊張した面持ちで私たちの前まで来ると、ワゴンの上のものをテーブルへと移していく。

「あ、私もやります」
「え!?」

 ここはレストランじゃない。私も彼女と一緒にワゴンの上のお皿をテーブルに置くと彼女は慌てたような顔をした。

「それにそんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。私たちはただの助手ですから」
「で、ですが、ツェリウス殿下の御客人と伺っておりますので」
「まぁ、それはそうなんですが……」

 この世界ではなかなか同い年くらいの子と話せる機会がない。だから友達とまでは行かなくとも少しお喋りが出来たらと思ったのだが、やはり無理だろうか。

「貴女から見て殿下はどういう方だ?」

 と、セリーンが彼女にそう訊ねた。

 確かに彼女のようにお城で働いている人たちは王子のことをどう思っているのだろう。純粋に気になる。

 すると彼女は急にぽぽぽっと頬を赤らめた。

「ツェリウス殿下は聡明で見目麗しく私ども目下の者にもあのようにお優しく、この国の全ての女性の憧れのお方です!」
「そ、そうなのか」

 興奮気味に一気に捲し立てられてセリーンも私も少々圧倒されてしまった。
 
「はい! ですので無事お帰りになられて本当に良かったねと先ほどから厨房でもその話でもちきりで……あ、し、失礼しました!」

 またも慌てたように頭を下げたその子にセリーンは首を振る。

「いや、訊いたのは私だ。ありがとう」
「殿下は、皆から好かれているんですね」

 なんだか嬉しくて私がそう続けると、そこでふっと彼女の顏が曇ってしまった。

「……中には殿下の出生について悪く言う者もおります。ですが、私どものような平民で殿下のことを悪く言う者はひとりもおりません!」

 それを聞いて胸があたたかくなった。パケム島でクラヴィスさんが言っていた通りだ。

(ドナにも聞かせてあげたかったなぁ)

 料理を全て並べ終え、彼女は少し恥ずかしそうに部屋を去っていった。

「王子、皆に好かれているんだね。なんか安心しちゃった」

 椅子に座りながら言うとセリーンはなんだか曖昧に笑った。

「しかし、ドナは城に来たら色々と大変そうだな」
「あ~、確かに……」

 私も苦笑する。
 王子があんなに女性に人気だとは思わなかった。

(でもきっとドナなら、それに王子なら平気だよね……?)



 その後、セリーンは楽しみにしていた宮廷料理に終始ご満悦の様子で、その食材や料理法について熱く語りながらじっくりと味わっていた。

 ――ラグは、その料理が冷たくなっても戻っては来なかった。

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