My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4


(なにそれ)

 知らず、地面に着いた手が震えていた。
 それは恐怖からくるものではなくて……。

「なに、それ」

 はっきりとした“憤り”に、小さく声が漏れる。

 ――カノンちゃんには知ってて欲しかったんだ。昔のあいつのこと。

 アルさんの声が蘇る。

 そしてまた、あの表情の見えない小さなラグがこちらを見上げた気がした。

 その頃の彼に会ったことがあるわけじゃない。
 話したことがあるわけでもない。――でも。

(ラグは、好きで“悪魔の仔”と呼ばれるようになったわけじゃない)

 こんな戦い、無意味だ。
 例え勝てたとしても、何にもならない。
 ラグがまた、アルさんの言う“本来の彼”から遠ざかるだけだ。

(やめさせなきゃ)

 私は足に力を入れ、背後の木を支えに立ち上がる。


「なんでもいい。とっととやるぞ」

 低く言って、ラグがその掌をルルデュールに向ける。

「ふっふー、そうだね。じゃぁ、いこっか!」

 ルルデュールが再び嗤いながらラグを指差した、そのとき。

 
  ねむれ ねむれ おやすみなさい


「!?」

 その歌声に、ラグが焦るようにしてこちらを振り返る。

 ルルデュールは初めきょとんとした顏で私を見たけれど、ふっと嘲るような笑みを浮かべ首を傾げた。

「おねぇさーん、なんのつもりぃ?」
「やめろカノン!!」

 次いでラグの怒声が聞こえたけれど、私は続ける。
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