My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4

 彼はあんなにお兄さんのことを慕っているのに。
 それを知らないはずないのに。

「何が王子のためですか!」
「…………」

 彼はまた固く瞳を閉ざしていた。
 答えてください、そう畳みかけようとした、そのときだった。

「フィー?」

 そんなか細い声が聞こえてきた。
 ハっとして声のした方を見る。
 塔の入口に寝間着姿のデュックス王子が呆然と立ち尽くしていた。

 その後ろにはツェリウス王子とアルさん。そしてクラヴィスさんが苦渋の表情を浮かべ立っていて、無事な彼の姿を確認してほっとするよりも。

(デュックス王子、なんで……!?)

 私は震える手で自分の口を塞いでいた。もう遅いとわかっているけれど。
 いつ扉が開いたのだろう。自分が大声を上げていたからだろうか、全く気が付かなかった。

 フィグラリースさんは扉に背を向けたまま、ただ大きく目を見開いている。

「フィー、何をしているんだ? 今の、どういうことだ?」

 消え入りそうな声。

「フィーが、じいさまが、兄さまを殺そうとしたって? 嘘、だよな?」
「…………」

 答えない従者に、デュックス王子の顔が今にも泣き出しそうに歪んでいく。そして。

「なんで何も言わないんだよ、フィー!」

 彼の叫び声が塔の中に高く反響した。
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