ラストトーク〜君がページをめくる時〜
部屋に、パソコンのキーボードを叩く音が響く。穏やかな日曜日の朝。空には朝焼けが輝いてとても綺麗。

私、一色夢芽(いっしきゆめ)は一心不乱にキーボードを叩き続ける。締め切りが近いためだ。

私は、幼い頃から読書が好きだった。そして自分でも書き始め、高校一年生の時に賞を取り、小説家になった。ペンネームは波花珊瑚(なみはなさんご)。

キーボードを叩くのをやめると、辺りは一瞬にして静かになる。人が多く行き交う東京とは違い、山に囲まれたこの村はとても静かで居心地がいい。

静かになった刹那に考えるのは、あの日、みんなで過ごした最後の人のこと。それぞれが別の道へと進んでいった高校の卒業式のこと。

私は感謝を伝えたくて、みんなに小説を書いた。私にできることは、言葉を紡ぎ、誰かのために物語を届けることだから。

私の歩んできた道は、決して綺麗で幸せであふれているだけじゃなかった。目を背けてはいけないものと出会ったりもした。

さよならは苦くて、悲しみは冷たい。それでも、みんなと出会って一緒に歩んだ日々は何よりも愛しいから……。
< 1 / 20 >

この作品をシェア

pagetop