恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
瀬良さんは営業で、割と遠くまで出向くことも多い。ここにいてもおかしくはない。
それにしたって偶然が過ぎる……と、タイミングの悪さにも、自分の運の悪さにもうんざりしながら向き合うように立ち直す。
まさか、こんな路地裏で出くわすとは思ってもみなかった。
スーツを腕にぶら下げた瀬良さんは、ネクタイも緩めた状態で、いつもなら首から下げている社員証もない。
アーモンド型の目にじっと見つめられ、胸がギュッと苦しくなるのを感じた。
その原因が、恋心なのかただの苦手意識なのかが自分でもわからなくなったのは、いつからだっただろう。
瀬良さんを見ると反射的に跳ねる胸が弾き出すものが、甘い感情ではなくなってしまったのは……いつからだろう。
「営業中?」
たまたま通りがかったんだろうと思い聞いたけれど、瀬良さんはそれには答えずに「噂、聞いた」と言う。
「北川さんとの噂。まぁ、ただの噂ってわけでもなさそうだけど。実際、仲いいみたいだし。前、友達とか言ってたけど、あれって本気で言ってんの?」
ただの世間話だけで済めばいいと思った。
なのに、瀬良さんにそのつもりはないようで、そこに息苦しさを感じながらため息を落とす。
一体、いつまでこんなことを繰り返すのだろう。
もう向き合えないのだと、きちんと伝えているつもりなのに、まだ足りていないということだろうか。
瀬良さんと、恋心を挟んで対峙することは、私にとってはもうツラいだけなんだと、どうしたらわかってもらえるのだろう。
「……ねぇ。こういうのやめない?」
静かに切り出すと、瀬良さんは眉を寄せた。