恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


真面目な顔で話す北川さんに、へなへなと肩の力が抜け落ちる。

恥ずかしさに耐えきれずに両手で顔を覆う。
すると、不思議と笑みがこぼれるから自分でも不思議だった。

さっきまであんなに沈んだ気分だったのに、今は違う。いつもの私だ。
ずっと胸の奥底でくすぶって濁ってしまっていた気持ちを声にできたせいか、北川さんが茶化すわけでも否定するわけでもなく、ただ受け止めてくれたからか、なんだか少しすっきりとしていた。

心にくっついていた錘がひとつとれたみたいな、そんな気分だ。

タイミングよく店員さんがデザートを運んできてくれたところで、気分を取り直し、よしっと気合を入れた。

「話がずれちゃいましたけど。今日もステップアップしますよ」

ぷるっぷるの杏仁豆腐を食べながら言うと、北川さんはホットコーヒーを飲みながら視線を合わせた。

甘さ控えめの杏仁豆腐は、口のなかに入れた途端にとろけてとてもおいしい。
コンビニではなかなかお目にかかれない逸品だ。

「っていうか、北川さん、私相手だと女性恐怖症出ていないですよね。目だって合わせられるし、そもそも部屋にふたりきりだって大丈夫だし」

いくら北川さんのなかで〝女性〟というジャンルから離して考えることができるようになったからといって、私だって列記とした女だ。

意識ひとつでこうも変わるのなら、案外、女性恐怖症を克服するのも早そうだ……と思っていると、北川さんがコーヒーをソーサーに置きながら答える。

「だから慣れが大事だって話しただろ」
「慣れ……」
「こうして白石と話すようになって気づいたが、相手のことをそれなりに知れば大丈夫なのかもしれない。おそらく得体が知れない相手だと怖いんだ」

目を合わせ言う北川さんの言い分には説得力があった。


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