恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―

「は、離して……」
「〝すっごい真面目そうな元カレ〟もさぁ、千絵のこういう顔見たの?」

私の言葉なんて聞こえないみたいに問われる。
まるでじっくりと観察するような目は、瞬きひとつ見逃してくれなそうだった。こげ茶色の瞳のなかに、私の困った顔が見える。

壊れたんじゃないかと思うほど強く速く打ち続ける鼓動の振動は、体さえも揺らすほどだ。
速くて、大きくて……どんどん、どうしたらいいのかわからなくなる。

「な、に……」
「俺が気に入ってた千絵の可愛いところ、どこまで見せた?」

顔を背けたいのに、瀬良さんの指がそれを許さない。
頭が真っ白で、こんなところ誰かに見られたらだとか、心配することすらできなかった。

見つめあうしかできない私を見て、ややしたあとで瀬良さんが聞く。

「北川さんにも見せてるわけ?」
「北川さん……?」

瀬良さんがまた少し距離を縮める。
少し動けばキスしてしまいそうな近さにハッとして、ようやく瀬良さんの胸を押し返した。

両手を力いっぱい伸ばし押すと、その手を握られるから、勢いよく振り払う。
バシッと音がするほど強く払ってしまったけれど、そんなこと気にせずに瀬良さんをにらみつけた。

「今度こういうことしたらセクハラで訴えるから」

背中を向け、勢いよく歩き出す。
心臓がドクドク鳴っていた。

『それ、俺以外に見せないでね』
高校の頃、よく言われた言葉が頭のなかによみがえる。

独占欲の強い瀬良さんは、何度も何度も言い聞かせるように、そしておねだりするみたいにそう言った。

まるで……呪縛みたいに。

もう、思い出したくなんかないのに、引きずり込まれたくなんかないのに……どうして近づくの?


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