恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
これだけ探してもないのなら、ここ以外で落とした可能性が高い。
一度戻って柿谷先輩になかったと報告しよう。
そう思い、リビングの電気を消そうとしたところで、視界の隅に人影が見え、肩がビクッと跳ねた。
一瞬にして血の気が引いたのが自分でもわかった。
でも、恐る恐る振り返り、確認できたのは幽霊ではなく瀬良さんで……バクバクと鳴り響く心臓の前に手を当て息をつく。
「お、驚かそうとしてるなら、本気で怒るけど。死ぬかと思った」
リビングの壁に背中を預けている瀬良さんは、呆れたような笑みを浮かべる。
「普通に立ってただけじゃん」
「それが怖いんだってば。声かけてよ。だいたい、本来なら誰もいないはずの時間帯に誰かがいたら……そうだよ。普通だったらこの時間、施錠したあとだよ。入れないのわかってたのになんで……あ、電気がついてたから?」
瀬良さんだって、モデルハウスが施錠される時間はわかっているはずだ。
それなのに電気がついていたから不思議に思って立ち寄ったのだろうか。
壁に寄り掛かることをやめた瀬良さんは、首のあたりを触りコキコキと左右に傾けながら「まぁ、そんなとこ」と答えた。
そしてこちらに近づき、一メートルほどの距離をとって立ち止まる。
カーテンまで閉め切っているモデルハウスが沈黙に包まれる。わずかな時間だったのに、それをきっかけにガラッと空気が……そして、瀬良さんの雰囲気が変わった気がした。
「それより、聞きたいことがあるんだけど」
ピンと張りつめた空気のなかで聞かれる。
「聞きたいこと?」
仕事でなにか頼まれていたことがあっただろうか。
ここは職場だから真っ先に仕事関係が浮かんだけれど、瀬良さんが口にしたのはまったく違うことだった。