死神列車は、記憶ゆき


ズキズキと重い痛みを感じながらも公園へ近付くと、まだそこに小夜の姿はなかった。

確か半年前の時も、私の方が目的地に着いていた。こんなところまで忠実に再現してくれなくてもいいのに……と少しため息をこぼしながらも、ゆっくりと公園内のベンチに腰かけた私。

「……冷たっ」

もう春だとはいえ、夕方だ。ベンチは冷たく冷え切っていて、思わず私は小さく身体を跳ねさせた。

小夜が来るまでに少しだけ気持ちを落ち着かせておこうと、辺りをくるりと見渡した先に、数本の桜の木が目に映る。まだ花こそ咲いてはいないが、茶色の細い枝の先には、いくつもの小さな蕾が寄り添うようにくっついていた。

その景色をボーッと眺めながら小夜を待ち続けること、数分。もうそろそろ小夜がきてもおかしくないんじゃないか、とドキドキしていた、その時。

「……っ」

遠くの方に、ずっと会いたかった彼女の姿が見えた。

「小夜……」

思わず呟かれた彼女の名前。

小夜は風に揺れる髪の毛を耳にかけながら、私を見つけてやんわりと頬を緩める。──ああ、登場の仕方も、過去となにも変わらないんだ。

きっとこの後小夜は……

「七海、お待たせ」

嬉しそうに私の名前を呼んで、こっちへ駆けてくるんだ。

「寒かったでしょ?待った?」

ベージュのスプリングコートに身を包んだ小夜は、申し訳なさそうに眉を下げる。

一瞬、なんて返答をしたらいいのか迷ったけれど、〝言葉や仕草は、未来を変え得るようなものでなければ、当時と全く同じものでなくてもいい〟という決まりがあったことを思い出し、ゆっくりと口を開いた。

「……ううん、私も今きたところだよ」

「そっか。七海のこと待たせちゃったかと思って、心配した」

「待ってないから大丈夫だよ。小夜こそ、急いできてくれたの?」

自分が、本当の自分でないことがバレるかもしれない、という怖さは若干あったが、出来る限り通常通り振る舞うことにしようと決めた。

「うん、急いできちゃったよ。七海のこと待たせたくなかったから」

私の言葉に、小夜は肩を竦めて小さく笑う。

小夜は本当に気遣いのできる子で、この優しさに何度も何度も救われてきた。目の前で笑顔を見せる彼女を見つめながら、じわりじわりと涙が滲むのが分かる。

小夜と出会って、まだ数分。

こんなにも序盤に泣くのは、あまりにも不自然すぎる。それに、……まだ早い。涙は、小夜に感謝を伝えるときまでとっておきたいんだ。

「小夜、とりあえず横に座りなよ」

「うん、ありがとう」

促されるままに私の横に腰掛けた彼女。


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