死神列車は、記憶ゆき


それから何を話すでもなく、なんとなくゆったりとした時間を二人で過ごす。半年前もそうだった。

お互い話したいことはたくさんあったはずなのに、どちらも口を開かず、ただ黙って夕焼けに染まる世界を眺めていた。

まるで、二人で刻んだ思い出を互いに一つ一つ振り返るように。

「……ねぇ、小夜?」

小夜と過ごした日々を脳裏に思い浮かべて、ふうっと息を吐く。

「どうしたの?」

「本当に明日、引っ越しちゃうんだね」

押し出した言葉は過去のものとは違ったけれど、言葉になって吐き出せたということは、これでは未来は変わらないということだろう。

だって、あの紙に書いてあったから。

《返す台詞などは当時と違ってもいいですが、大幅に未来を変え得るような行為をしようとしたら、身体が一時的に動かなくなります。
(例えば、多いのが、対象の人物を特定の場所に行かせないように引き留めようとする、など。その場合、身体が無意識に制御されます。過去はあくまで過去。今の未来が変わらぬよう、現実的に動くようになっています)》と。

つまり、未来が変わる可能性がある台詞を放とうとした場合は、自分の身体が一時的になんらかの形で制御されてしまうということだ。

そして、さっきの私の台詞は制御されることなく放たれた。これは、その言葉では未来は変わらないということになる。

「……そうだね。明日の早朝、この町を出るよ」

そう呟いた小夜の横顔は、どことなく寂しそうに見えた。……そんな顔をされると、私だってたまったもんじゃない。

「信じられないよね。明日から、七海が隣にいないんだもん。私、新しいところでも上手くやっていけるのかなあ」

「……小夜なら、大丈夫だよ」

「ええ、本当?その言葉、信じてもいいのー?」

冗談っぽく笑いながら、小夜が私の頬をつつく。

だから私も、「今まで私が小夜に嘘をついたことや、隠し事をしたことがあった?」と口にして微笑んだ。

……けれど、その後すぐに自分の過ちに気が付いた私は、慌てて口を噤む。

「そうだね、七海は、私に絶対嘘をつかないし、隠し事もしない」

嬉しそうにそう言った彼女の顔を見ることができず、私は地面に視線を落とした。

だって、……私、小夜に隠し事をした。

小夜が引っ越していった後、一人だけ残された教室で、執拗ないじめにあっていた。でもそれを小夜に言うことはできなかった。……ねぇ、小夜。今、目の前にいる私は、小夜に隠し事をしてしまったんだよ。

なんて、そんなことが小夜に通じるわけもなく。小夜は明るく笑い、「これからも仲良くしてね」と声を弾ませる。


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