見知らぬ街は異国の風景
思わずフウーっと小さく息を吐く。すると少しだけ体温が下がった気がしてきてピンと背筋を伸ばしてみた。

 

 何気なく見上げた天井には大きなシーリングファンがゆっくりと回っている。 

 

 雅は、小さな銀色のスプーンを手に取るとモンブランの五合目辺りを慎重に一さじ掬ってみた。モンブランは傾きすらせずに優雅に耐えている。雅は、その姿に安堵したかのように一つの間を置くと、凜とした面持ちでモンブランの淡い黄色の山肌を口に運んだ。ほどよい甘さがほのかに頬を緩ませる。白いお皿の小さな花の絵が可愛かった。何という花なのだろうか。お皿をグルリと回してみたが、結局は名前など思い浮かぶことはなくて、そんな自分の姿が妙に滑稽に思えると、秘かに笑いを堪えては

小さく肩を揺らしてみたりした。



ふと見た窓の外の風景。人の群れだけが慌ただしく行き交っていた。みんな暑そうだった。だからと言って特別な感想などはなくて、ただ、暑そうだなと、それだけを思った。



 ぼんやりと眺めていた意識を店内に戻すと、時計の針の音までもが聞こえてきそうな空間だったことに今更ながらに心が静まった。そして、いつしか常連客のような佇まいとなる自分に気付き少々の気恥ずさも感じるが、ともあれ、いずれはここがお気に入りの店になることだろう。そんな予感に浸りながら再度行き交う人の流れをそっと眺めたりしている。そんな静かな空間と流れゆく時間とその中にいる自分に酔っていると、アイスコ―ヒ―の氷が耳障りの良い音を立てながら落ちてゆく。湖面に広がる波紋。その波紋を追うようにストローで優しく掻き混ぜてみた。軽くぶつかり合う氷がカラリカラリと音を奏でる。



 雅は、暫くの間それを繰り返していたが、溶けゆく氷の表情にも少しだけ飽きてきた頃、ふと顔を上げるといつの間にか窓の景色がスクリーンのように見えて、まるで今、映画館にでも居るようなそんな気持ちになってしまった。



 見覚えのあるような場面が次々に演じられる。右手で頬杖をついたまま、俳優たちの細かな動きを目で追う。
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