ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
日詠先生は閉じていた目を更にぎゅっと強く閉じ、苦しそうな表情を浮かべた。
「・・・すまない。俺には、できない・・・」
今にも消えそうな彼の声。
『・・・・なんで?なんとしてでも助けてくれるって言ったじゃない!』
私は今まで自分を支えてきてくれたあの言葉をもう一度口にすることで、苦しそうな彼に・・・日詠先生に更に追い討ちをかけた。
だって
私はアナタに
今までのように
傍で見守っていて欲しかったから・・・・
日詠先生は彼を追い込むような私とのやり取りに耐えられなくなったのか、黙って椅子から立ち上がり私に背を向ける。
そして、立ったままの彼はそう言いながら俯く。
「俺は、君の・・・・・」
私は何か言いかけた彼の言葉に黙ったまま耳を傾ける。
「君の・・・兄だから・・・」
そして、日詠先生は私のほうに振り返ることなく、さっき福本さんが入ってきたスタッフ用の出入り口から、静かに姿を消した。
”君の・・・兄だから・・・”
その一言を耳にした私は自分の頭の中で何度もその言葉を反芻していた。
ついさっきまで
ここで出産できない事
お腹の中の赤ちゃんの心臓に異常があるという事
それらでいっぱいいっぱいだった私の頭の中にその一言がねじ込まれる事で
頭の中はもはや制御不能なまでにぐちゃぐちゃになっていた。
それから暫くして、私の目の前には、徐々に触れることのできない薄黒いカーテンのようなものがちらついてきて・・・・
『・・・・・・・・・』
私の記憶はそこで途切れた。