ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
「で、なんで今日、朝から勤務があるってわかってるのに、神奈川県にいるのよ?海老名ってまさか・・・好物のメロンパンを買いにわざわざ行ったってわけじゃないでしょうね?」
『いえ、そうではないのですが・・・・』
「じゃあ、なによ?言わないと、無条件で研修医上がりの美咲に日詠クンの代診、やらせるわよ。」
美咲に代診はまだ早い
そんなことは俺と一緒に指導している奥野さんのほうがわかっているはずだ
ということは・・・白状しろ
そういうことだな
『・・・東京医科薬科大学に行ってきたんです。』
「はぁ?東京医薬大に?そういえば確か昨日、夜まで勤務してたよね?」
『ええ・・・まあ。』
「まさか、伶菜ちゃんに何かあったって連絡が入ったの?あたし、何も聴いてないわよ。どういうことよ?」
さっきまでのダルそうだった声がグッと引き締まる
そりゃ、そうだよな
奥野さんも伶菜のことを心から心配しているひとりだから
『いえ、そうではなくて・・・』
「だったら、何よ?美咲を泣かせたいわけ?」
早く言えよという奥野さんの腹の中の声が嫌という程伝わってくる
ここで事実と異なることを言って、それが後からバレたら
俺がかなり痛い目に遭うのは目に見えている
『・・届け物を届けに・・・』
「届け物って何よ?」
『出産祝い・・・です。』
「・・・・・・・・」
追い立てられてからの、いきなりの沈黙
出産祝いを届けに行って、勤務開始時刻に遅れるとか社会人として失格だ
そういうことを暗示するような沈黙
「まったく、アナタって人は・・・・」
ようやく聴こえてきた声は溜息混じり。