ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
『先生は、そんなに医師になりたかった・・・そんなに・・・うちから出てしまうことを選んでまで、なぜ?」
だからこそ、私の知りたいという気持ちは止まらない。
「・・・俺には、どうしても守りたいモノがあったから。」
日詠先生はベンチに腰かけたまま体を前傾させて、太ももに肘を付いた状態で指を組んだ両手の上に顎をのせてそう呟いた。
やっぱり切なそうで寂しそうな先生の瞳。
先生の過去を聴き出すような事をして、そんな瞳にさせてしまったのは私だけど
見ている自分も辛くなる
でも、そんな風になるぐらい、彼がどうしても守りたかったモノってなんだろう?
私だったら
今の私自身だったらどうしても守りたいモノは・・・祐希
家族だ・・・・
じゃあ、日詠先生は?
たった8才で父親が亡くなったばかりで色々不安もあっただろうに
母子、兄妹の繋がりを絶ってまで
先生は何をどうしても守りたかったの?
何をそんなに背負っていたの?
『先生は何を守りたかったの・・?・・・・あっ、ごめんなさい。私・・・・』
父親が亡くしたその後について日詠先生が答えてくれた瞬間、私が彼の心の奥深くに踏み込んでしまったような気はした
でも、そのキズは妹である私もなんとなく関係していたような気がして
私は知りたいという気持ちをどうしても止められなくて
そう口にしていた。
そんな無神経な発言を繰り返す私に
日詠先生は嫌そうな顔を見せることなく、頭の上で両手指を組んで優しく微笑みかけてくれた。
「信念・・かな」
『信念・・・・ですか?』
彼はいつものあの微笑みを見せながらそう答えた。
あまりにも抽象的な答えに私は戸惑いを隠せなかった。
「そう。親父が抱いていた信念。それと・・・自分にとってかけがえのない・・・」
コンコンコンッ!