ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋




ここまで順調だった俺なのに
ここに来て、まさかの緊張。
今日の中で一番、時間が長いと感じる。

でも、その緊張は、伶菜と杉浦さんらしき女性達の ”宅急便で荷物を送る、送らない” という軽い言い合い状態の声によってあっさりと掻き消された。
とりあえず邪魔をしてはいけないと思った俺は彼女達から見えないであろう場所から彼女達を見守ることに。


新幹線で帰るつもりらしい伶菜は宅急便で荷物を送りたいと必死に訴える。
それに対して、杉浦さんは荷物は送らなくても大丈夫と涼しげな声で伶菜をなだめる。

事情を知らない伶菜と事情を充分過ぎるほど知っている杉浦さん。


先に痺れを切らしたのは、

「真里、あのさ、やっぱりこれ、宅急便に頼んだほうがいいんじゃ。」

事情なんか知らずに、床の上に置いてあるダンボールの前にしゃがみこんでそれを持ち上げようとした伶菜だった。


『そのダンボールはマズイだろ。』


まだ産後間もない伶菜
しかも祐希君の看病に付き添っていて、まだゆっくり体を休めていないはずだ

そんな彼女に3ヶ月近くの入院で使用した物品が詰まった、いかにも重そうなダンボールを持たせるわけにはいかない


それに意見がぶつかったままの伶菜と杉浦さん。
その状態が動かないままでいるのは、
荷物運び役を請け負う俺が遠巻きに彼女達を見ているだけで、彼女達の前に姿を現していないからだろう


だったら、自分が姿を現せば、宅急便の依頼はいらないということ

『コレ、持って行けばいいかな?』

それが伶菜にもわかるだろうと思った俺は、ようやく一歩足を前に進めた。



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