ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋


そして迎えた日曜日。

杉浦さんは東京で買い物をしたいからと前日から東京に滞在しているらしい。
それに、伶菜を驚かせたいからと早めに病院へ行くとも言っていた。

俺も昨日は夜11時まで残業したため、自宅で仮眠を取った後、早朝にクルマで名古屋を出た。


名古屋医大への進学を機にそれまで住んでいた東京を離れた俺。
学会や研修会で東京を訪れることはあるものの、プライベートでの上京は片手で数えられる程度。
それなのに、この短期間に3回目の上京。
もうナビをアテにしなくても殆ど運転できる。
でも、バックミラーに映る真新しいチャイルドシートを見ると、安全運転しなくてはと何度も背筋を伸ばした。


『今日は富士山、ハッキリ、見える。それにしてもデカイな。』


前回の東京からの帰り道。
夜だったせいで拝むことのできなかった富士山。
実は左右非対称であるらしいその形。
それをこの目でしっかりと確認することできるぐらい天気がいい。

伶菜を突き放した自分が行ってもいいのだろうか?と不安の中にいた前回の上京。

でも、伶菜ともコミュニケーションを取ることができるようになっていて、彼女の息子の回復経過も良く退院に至ったという安心感がある今回は気持ちよくアクセルを踏むことができている。


『横浜町田・・・・すんなり通過できたし、用賀も空いてるし・・・』


特に渋滞もなく、スムーズに東京まで辿り着いた。
都内の道も大学周辺の一方通行もほぼ頭に入っていて、病院の駐車場までへも戸惑うことなくハンドルを切ることができた。


『そろそろ荷造りが終わった頃か?』

大学病院の駐車場から、病棟建物までの道のりももう迷うことはない。

小児科病棟入り口にあるナースステーションに、退院の迎えに来たと一言伝え、伶菜達がいるであろう病室に向かう。



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