ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
でも、いざ、杉浦さんがいなくなった今
帰り道で緊張しっ放しの伶菜を想像してしまう
だから、少しでもその緊張を和らげようと海老名サービスエリアでメロンパンを買いに行きたいと俺は伝えると・・・・伶菜は真顔で海老名に恋人がいるの?とか不思議な勘違いをしている
そんな伶菜のリアクションに、馬鹿だなと思いながらも、可愛さをも感じてしまう
このまま帰ると、兄妹の関係を踏み外すような感情をまた抱いてしまうと再び思った俺は
『じゃ、車に荷物を置きに行ってくるから、すぐに戻るからここで待っててくれな。』
自分の気持ちを仕切り直すために、荷物を運びながら、伶菜から一旦、離れた。
『暑いな・・・・』
まだ暑さが残る駐車場でクルマに荷物を積み込み、額の汗を拭う。
真新しいチャイルドシートの座面を祐希君が乗り込みやすいように、慣れない手つきで回す。
車内にこもった熱を少しでも逃がすようにと窓も開ける。
これで名古屋へ帰る準備は整ったはず。
『兄貴って、大人になると距離感が難しい。でも、今の彼女を守れるのも兄貴という立場なんだ。』
俺は自分自身にそう言い聞かせながら、伶菜と祐希君が待つ小児科病棟へ向かって歩き出した。
小児科病棟に戻ると、伶菜は肩を落として腰掛けている。
杉浦さんと声を上げながら荷造りをしてたさっきまでの元気さがまるで感じられない。
もしかして、俺が駐車場に行っている間、何かあったのか?
『帰るか?・・・そろそろ』
理由を知りたい
涙を溜める程、キミが感じている不安の理由
そして
俺の瞳をじっと見て、安心した顔を浮かべるような理由を
『一緒に帰ろう。』
でも、慌てることはない
道のりは長いから
俺は抱き上げた祐希君を右腕で抱きかかえ、もう一度涙を流した伶菜の手を左手で引き、東京医科薬科大学病院の正面玄関を出た。
そこから駐車場までの道のりを3人でゆっくりと進む。
右腕から伝わってくる祐希君の重み、左手から伝わってくる彼女の温かい体温。
それらによって俺は身が引き締まる想いを抱かずにはいられなかった。