ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
こうやって日詠先生に助けられて、自ら命を絶つのをやめた私を待っていたモノ。
それは悪阻による激しい嘔吐と切迫流産予防の為のベットから一歩も動けない絶対安静と24時間持続点滴だった。
かなり辛い。
でも私は新しい生命と一緒に生きようと決めたから、日詠先生と看護師さんの言う事を素直に聞く事にした。
「高梨さん、調子どう?」
日詠先生が若い女性の看護師さんを連れて回診にやって来た。
『気持ち悪い・・・です。』
「そうか・・・・」
日詠先生は照頭台の上においてあった黄色いチェック柄のマグカップを手に取った。
「これは飲めてるんだ?」
私と目を合わせた日詠先生はニコリと笑う。
屋上での自殺しようとした日以来、日詠先生は消灯時間前頃になると毎晩ホットミルクをいれて私のベットまで持ってきてくれている。
それが ”これ”。
「日詠先生、安定剤とか睡眠導入剤とか処方しなくていいんですか?」
”これ”が指し示す意味がおそらくわからないであろう看護師さんが眉間に皺を寄せながら日詠先生の耳元で囁いているのが聞こえてくる。
はぁ、やっぱり私
精神不安定な、手のかかる妊婦と思われてるんだ
そう思われても仕方ない
確かに自殺しようとしたんだから自業自得だよね
密かにしょんぼりしていた私の目を日詠先生がじっと見つめている。
「いらないよ。彼女はそんな薬はいらない。」
「でも、高梨さんは・・・」
「大丈夫だ。」
納得がいかないような態度の看護師さんに対し、日詠先生は毅然とした態度でそう言った。
私にもはっきり聞こえる声で。
自殺しようとしていた頃にどうしようもない程の薬漬け状態だった私に、日詠先生は薬はいらないと言った。
私も耳を疑った。
でも、心を病んでいるから薬が必要では?と判断した看護師さんとは対照的に
”薬なんかいらない” と言ってくれた日詠先生の一言は
私の人格を肯定してくれたみたいで
なんだか・・・・・嬉しかった。