ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
その後姿を目にした私はまたまた胸がズキンとした。
日詠先生のコトが好きと言った奥野先生が
私のせいで彼女のその想いを彼女自身の心の中に閉じ込めてしまったみたいに思えて
でも今、なら言える
私、彼の妹だから
彼と私は
決して結ばれるコトはないんだから・・・
『奥野先生!日詠先生、今のままでいいんですか?』
「・・・・・・・・」
『私、奥野先生なら、日詠先生と奥野先生がお互いに想い合っているのなら、今、スグにでも日詠先生のもとを離れられます!!だから・・・』
奥野先生は私が言葉を発したと同時にその場で立ち止まったが私の方を向いてはくれなかった。
「伶菜ちゃん・・・」
でも声は聴こえた。
私を諭すような優しい声。
日詠先生に東京行きを勧められた時、混乱した私を落ち着かせてくれたあの時のような声が。
「伶菜ちゃん・・・私を信じて・・・日詠クンに、そしてアナタに、もう辛い想いは絶対にさせないから。」
『・・・奥野先生・・』
日詠先生と私に辛い想いはさせないという頼もしい言葉を投げかけてくれた奥野先生に対して、返してあげるべき気の利いた言葉が出てこない
だって、日詠先生のコトが好きと言った奥野先生なのに
彼女が投げかけてくれたその言葉は
私は日詠先生の傍から離れる必要はないと言っているような気がして・・・
私は日詠先生の妹というだけなのに
本当にこのままでいいのか自分自身でも半信半疑で
気の利いた言葉どころか、自分が何を言ったらいいのかすら、わからない
「伶菜ちゃん、アナタのそういうところも、きっと日詠クンのパワーの源なのね・・・だからアナタはそのままでいてね・・この先、何があっても、ね・・・」
奥野先生はそう言いながら頭だけ振り返って私の方に向き、軽くウインクをした後、再び私に背を向けて軽く右手を振りながら歩き始めた。
そのままでいてね
その一言で
自分はこのまま日詠先生の傍にいてもいいと奥野先生に背中を押されたようで
私は彼女の懐の深さを痛い程感じた。
だって、好きな人の傍にいたいという願望は
条件とか、職位とか、立場とか
そんなの、一切、関係ないはずだから
だから
奥野先生
あなたが言ってくれたように
もう少しだけでいいから、このままいさせて
もう少しだけでいいから、彼に甘えさせて
彼に大切な人ができることによって
彼が私から離れたくなる時までとは言わない
私が自分自身の力で前をしっかり向いて歩いていけるようになるまで、それまで
・・・私に猶予期間を下さい
私は奥野先生の後ろ姿を見ながら心の中でそう呟いた。
でも、この時は私は
奥野先生の ”この先、何があっても” という言葉が指し示していた意味を
全くと言っていいほど理解していなかった。
その意味を理解したのは
ずっと後のコト・・・・