ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Reina's eye ケース35:届かない声
【Reina's eye ケース35:届かない声】
”ゴメン、まだ帰れそうにない・・・・”
日詠先生から最初に帰宅できないメールが届いてから5日後。
再び彼から届いたメールは、いつもは文末に書き込まれている彼の名前も書き忘れてしまっている位、忙しさを予想させるモノだった。
日詠先生が忙しい時。
2、3日病院に泊り込むことは時々あったけれど、5日も帰宅しないことは今まで無かった。
だから、忙しいから帰れないということをわかっていてもさすがに心配になった私は、彼の様子を窺いながらお弁当を直接手渡すために、産科外来の診察が終わるであろう時間を狙って、祐希と一緒に外来の受付に向かった。
『あの・・・日詠の家族の者ですが、彼に直接渡したいものがあって来たのですが、まだ診察中ですか?』
「いえ、診察は終わっていて、日詠医師は休憩に出かけています。もしよろしければこちらへ戻るように連絡致しましょうか?」
受付の事務員さんは聞いているこちらがホッとするような丁寧な口調で応対してくれた。
『あっ、いえ結構です。なんとなく彼の居場所、見当つきますから・・・お忙しい中ありがとうございました!』
私もその事務員さんに習って丁寧な口調でそう答え、軽く会釈をしてその場を後にした。
私が向かった場所は直接エレベーターで行くことができないため、途中でエレベーターを降りて、ベビーカーもその場に置き、祐希を抱っこしたまま薄暗い階段をゆっくりと昇って行く。
この階段、入院中、よく登った
いろんな想いを抱きながら
こうやって祐希を抱っこして昇ることができるなんて
再び自ら命を絶とうとした時には全くと言っていいほど想像できなかったな
これも多くの人の支えがあってのコト
そして
あの日、日詠先生が私を再び救ってくれたから
こうやって親子でこの階段を昇るコトができたんだ
階段を一段一段昇る毎に蘇るあの日の記憶をじっくり噛み締めながら私は前へ進んでいた。