ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
そして真っ青の空の下、取り残された二人。
「寒い!!!」
『本当に今日は寒いですよね・・』
「こんなに薄っぺらい生地じゃ、あんまり温まらないかな?」
福本さんは羽織っていた紺色のカーディガンを抱っこしている祐希をすっぽり覆うように私の肩にかけてくれた。
『福本さんのぬくもりが伝わるから、祐希も温かいと思いますよ♪』
日詠先生がこの病院を辞めることなく産科医師を続けられることをちゃんと自分の耳で確認できた私達は、安堵の表情を浮かべる。
「私、日詠先生のお父さん・・・初めて見た!」
日詠先生のお父さん
福本さんがその言葉を口にした瞬間
私の頭の中で自分の父親の遺影が過ぎった。
自分の父親でもあり、日詠先生の血の繋がった父親でもある
高梨拓志という男の人の遺影が。
「日詠先生のお父さん、この世界じゃかなり有名な人だからなんか近寄り難い人かなって思っていたけど・・・実際にお会いしてみると逆に ”この人がかの有名な心臓血管外科医?” って感じちゃうぐらい人当たりがいいのね・・・」
『・・・そう、ですね。』
福本さんが話をしてくれていても私はうわの空状態。
だって、プラネタリウムの研究員だったと母親から聞いていた父親が
実は産科医師で、しかも
日詠先生が医師として憧れる人物だったなんて
全然知らなかったから。
もしかして、東京の日詠先生が私に話しておきたいっていうコトは
私の父親のコトなのかな?
「伶菜ちゃん?」
『えっ?ハイ、はい。』
「大丈夫?なんか元気ないけど・・・」
ようやく私は我に返った。
福本さんにまで余計な心配をかけられないから。
『そんなことないですよ♪ 日詠先生もこのままこの病院にいられることになりそうだし♪』
「そうね、しかも、伶菜ちゃんはこれからあのダンディな日詠父とディナーだしね。ナオフミくんに負けじ劣らぬカッコイイ父よね♪ いいなあ♪」
『えへへ。』
「えへへか~、いいな。じゃ、そろそろ休憩終わるから戻るわね・・・またね伶菜ちゃん!」
私のカラ元気に付き合うように福本さんの口調も若干軽かった。
そして、祐希とふたり屋上に取り残されてしまった私は、日詠先生に渡しそびれたお弁当を医局の事務員さんに託して、一旦自宅へ戻った。
いつ帰ってこれるかわからない日詠先生の姿はもちろん自宅にはなかった。
そんな彼のために、彼が帰ってきた時に食べさせてあげたいほうれん草と茄子の赤だし味噌汁、そしておかずを数品を作ってから、私と祐希は西鶴舞駅の1番出口へ向かう。