ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋


「結局、決められないや・・・マスター今日のオススメは?」

先生はそう呟きながらメニュー表をパタンと閉じてしまう。
彼と同様に何を頼むか決めることができていない私もメニューを開いたまま視線をマスターのほうへずらした。


「そりゃー今日は、高梨クンの娘さんが来て下さってることだし、彼の大好物なビーフコロッケでしょ?店の今日のオススメメニューのカニクリームコロッケも一緒につけちゃおうかな♪ 勿論、揚げたてでね!」


お父さんの大好物、ビーフコロッケだったんだ
どっかの誰かさんと一緒だ
そんなところまで似てなくても

だから、東京の日詠先生は私をここに連れてきてくれたのかな?
お父さんがちゃんと生きていた証を見せてくれるために

そんなマスターの提案に東京の日詠先生も私も即賛成しオーダーした。


注文した品が出来上がってくるのを待っている間、先生はビーフコロッケ以外にもこの店の美味しいメニューについて楽しそうに教えてくれた。


「ハイ!! 揚げたてのビーフ&カニクリームコロッケ定食。熱いから気をつけてね!!」

両手に大きなお皿を持って再度私達の前に現れたマスター。


「ベビーの離乳食はもうちょっと待っていてくれよ~♪ 早紀ちゃんが今、格闘しながら作ってるから・・・日詠クンちょっと覗いてみるかい?」

マスターは小皿をテーブルの上に置きながら意味深な笑みを浮かべる。


「・・・やめておくよ。僕が覗いたりしたら、彼女パニックになるかもしれないから・・・」

先生も冗談ぽく笑う。


「さあ、せっかくアツアツなんだから食べようか!祐希クンお先にゴメンね・・・頂きます。さあ、伶菜さんも!」


祐希の方に身体を向けて”お先に頂きます”と両手を合わせてから、ナイフとフォークを手に取った先生。


『それじゃ、頂きます!祐希、お先に♪』

私も祐希に一声かけて早速食べ始めた。


黄金色に揚がったビーフコロッケとカニクリームコロッケ。
いつもの私ならどっちから食べようか迷うところだけど、
今日の私は迷うことなくビーフコロッケを口へ運んだ。

父親の大好物だった
そして
あの人の大好物でもあるビーフコロッケを・・・



「どう?美味いだろ?さっき、メニューなんて渡してしまったけれど本当はこの味をキミにも食べて貰いたくてこんな古臭い店に誘ってしまったんだ・・・こんな店なんて言っちゃあマスターに怒られそうだけどね。」

『・・・・・』

「・・・もしかして、フレンチとかイタリアンとかもっとお洒落なところのほうがよかったのかな?」

『・・・・・』


言葉が出ない
フレンチとかイタリアンとか、お洒落な店とかドレスコードとかそんなのどうでもいいぐらい、嬉しかったから
嬉しかったんだから・・・


< 429 / 699 >

この作品をシェア

pagetop