ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Reina's eye ケース39:どっちが幸せ?


【Reina's eye ケース39:どっちが幸せ?】



パタン、カチャッ




玄関のドアが静かに閉められた後に鍵をかけられた音。
日詠先生がいつ帰って来てもいいようにつけたままにしておいた門灯のスイッチを消した音まで聞こえてくる。

昨晩、東京の日詠先生から過去の話を聴かせてもらったばかりで、日詠先生とどう向き合ったらいいのかわからないままなのに、どんどん彼は近付いて来てる


どうしよう・・・




ガチャッ


私と祐希が寝ている寝室のドアが静かに開き、廊下の照明が少しだけ差し込んでくる。
彼とどうやって顔を合わせていいのかまだ決めかねていた私は思わず寝たフリ。
ドアを開けたその人は、私達に声をかけることなく、暫くその場に立ったまま。

ちゃんと起きたほうがいいのか、このまま寝たフリをしたほうがいいのか迷っている間にドアはその人によって静かに閉められてしまった。


久しぶりに帰って来たのに、寝てるなんて
きっと日詠先生は寂しいよね

しかもタヌキ寝入りしているなんて
きっと私ズルイことしてるよね

まだ彼に何も伝えていない今は、彼と私は兄と妹という家族なんだから
せめて、久しぶりに帰って来た彼を家族らしく迎えてあげなきゃ


『おかえりなさい・・』


その人が向かったと思われるキッチンへ足早に駆け寄った私は、ベージュのダッフルコートを着たまま冷凍庫の中を物色していた彼の背後からそう声をかけた。

突然の私の声に驚いたのか、かすかに両肩を竦め、冷凍庫内を物色していた手を止めた彼。


「起こしちゃったかな?・・・ゴメンな。」


私のほうに振り返り、少しかすれた声で謝った彼が苦笑いを浮かべる。


久保先生のこともあって、きっと寝ずに仕事していて疲れてクタクタなはずなのに
そんな風に謝らないで・・・


『ううん、大丈夫。祐希がグズグズしていてあんまり熟睡してなかったから・・・』


私は嘘をつく。
祐希はグズグズなんかしていない。
私が眠れなかったのは、彼の知らない事実を知ってしまった私がどうしたらいいのか考えてたから。

こんな些細な嘘なのに、心がズキンと痛む。
多分、彼は私が彼の知らない事実を知っていることに気が付いていないだろうから。


私が妹のまま彼といるということは
彼に対して隠し事を秘めたまま
時にはこうやって嘘をつかなくてはならないんだ





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