ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
彼女を引き留めたはいいが、そこからどうしたらいいのかなんて全然考えていない
別にやって欲しいことも思い浮かばない
すぐそこに居てくれればそれでいい
ひとりで過ごすことなんて別に寂しいなんて思ったことはなかったせいか
居てくれればいいと思うなんて今までなかった
だから、それをどう伝えたらいいのかわからない
彼女の腕を掴んだ手からかすかに伝わってくる緊張感
さっき彼女の肩をもたれかかってしまったことといい、今のこの行動といい、流石に怖がらせてしまったのか?という想いが頭に沸き立った俺は、
『・・・冷たいタオル、気持ち、いいな』
遠ざかりそうだった彼女との距離感をなんとか維持できそうな言葉をようやく見つけた。
でも、それが今、本当に適切な言葉だったのかわからない。
だから俺は目を閉じたまま彼女の反応を待つしかなかった。
本当に適切な言葉は
あんなこと、こんなことしてごめん・・・だったのか
それとも
このままここに居て・・・だったのか
伶菜にとって、一番理解できる言葉はどれだったんだ?
「へっ?あれ?そういうコトするんじゃないんだ・・あっ!!!!」
『・・・そういうコトって?』
拍子抜けしているような彼女の言葉に、こっちも拍子抜け状態。
そんな真っ赤な顔して、何考えていたんだ?
水滴がびっしりついた銀色のボウルと何かが入っていそうな小鉢が載せられたトレイを両手で持ったまま、目が泳ぎ始めた伶菜。
熱があってぼーっとしている今の俺。
今までの俺なら、そっとしておいて欲しいと思うはずなのに、気になる
今度は何を言い出すんだろう?って
次は何が飛び出してくるんだろう?って。
「お、起きてた?・・・すり、すりっ、すりおろしたりんご、食べる?」
すり、すり、すりおろしりんご
どれだけ、林檎をすり下ろしたらいいんだ?
小鉢の中は擦り下ろし林檎が入っていたんだな
擦り下ろし林檎なんてもう随分食べてない
仕事が休みの時に料理をする自分でも作ったりしない
まだ俺が高梨の家にいた頃、俺が風邪をひいた時には決まって、お袋が擦り下ろし林檎を作ってくれてた
なんか懐かしい
『・・・すり、、すり、、すりりんご、、食べる・・・』
食欲はないけれど、その懐かしい味なら食べたい
こんな真夜中にそれを作ってくれた伶菜に感謝しながら・・・