ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
「森村先生、お忙しいですよね。また、お時間がある時に是非お話を聴いて頂けると嬉しいです。」
「折角だけど、ゴメンね~。女子高生の患者がさ~、”森村先生じゃないと抜糸して欲しくない” なんて待ってるからさ~、コレ、食ったら行かなきゃいけないだよね~。」
「そうでしたか。お忙しい中、大変失礼致しました。」
「どういたしまして!」
森村くんに断られてしまったスーツ姿の若い男性はペコリと頭を下げて、医局の出入り口のほうへ歩いて行ってしまった。
今の、MR(製薬会社の医薬情報担当者)か?
でも、MRなら、新薬の情報など重要な情報を持ってやってくることもあるから、こんなにあっさりと断らないだろう
となると・・・・
「死亡保険とか・・・オレ、死なないからいらね~っつーの。」
背中越しに聞こえてきた森村くんの呟きから、さっきのスーツ姿の若い男性はどうやら生命保険会社の営業マンらしいことがわかった。
「日詠さん、美味そうっすね~。」
生命保険会社の営業マンの話を聞く暇もないぐらい大急ぎで脂っぽいアジフライ弁当を食べているものだと思っていた森村くん。
その彼が背後から俺の弁当を覗きこんでいるのに、正直驚く。
「あれ~?、愛妻弁当みたいな雰囲気~?!っていうか、日詠さん、結婚してましたっけ?」
愛妻弁当とか結婚とか、そういう言葉にも驚く。
他人から見たら、今の俺ってそういう風に見えるということも。
『いえ。』
「じゃあ、これからそのご予定とか?」
これから結婚の予定・・・か
考えたこと、なかったな
自分のプライベートな空間に特定の人間がずっと居続けるということ
それは伶菜達以外にそういうことがなかった
元々、俺自身がそういう空間に他人を入れるということが苦手だったから
だとしたら、伶菜達がいる今の状況
妹家族と同居している状況だが、傍からみたら、結婚しているように見えるのかもしれないよな
でも、結婚しているわけじゃない