ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
「そんな格好でウロウロすると、風邪ひくぞ。」
耳元で聞こえた小さくて低い声。
ちょっぴり汗のにおいがした。
でも嫌な臭いじゃなかった。
そして動けずに俯いたままの私の視界には
緑色の手術着らしきズボンとひらひら揺れている白衣の裾が入り込んできた。
『先生・・・?』
私はその人を確かめようと上を向こうとした。
けれども更にぎゅっと抱きしめられて動くことができない。
「ごめん・・しばらくこのままでいて。・・伶菜。」
耳元で聞こえる囁く声。
そして、伶菜という自分の名前を彼の低い声で呼ばれた私は自分の耳を疑った。
『日詠先生?・・・先生?大丈夫?』
「・・・・ああ、大丈夫・・・だ。」
徐々に小さくなる日詠先生の声。
彼に伶菜と名前で呼ばれた上に、背中から抱きしめられて動けなくなった私の心臓の音はどんどん速さを増し大きくなる一方。
どうしちゃったんですか?日詠先生?
私、どうしたらいいですか?
白衣を着た産科医師が妊婦を抱きしめている姿をナースステーションの傍のこんな人目のつく場所で誰かに見られたら
先生、まずいんじゃないですか?
『このまま・・えっと、このままじゃ、先生・・・・?』
「・・・・・」