ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Hiei's eye カルテ48:サヨナラの足音


【Hiei's eye カルテ48:サヨナラの足音】




病院の医局内で俺に保険の商品を紹介してくれている佐橋さん。
新栄のカフェで、伶菜に彼女の婚約者として紹介されたのは
医局に出入りしている営業マンの中でも好感度が高い人物だと思っていた彼だった。


伶菜の婚約者としてふさわしくないと反対する要素が見つけられない俺は、まだ昼寝をしていない祐希を連れて、彼女達よりも早くカフェを出て、自宅へ向かった。

その途中でうとうとし始めた祐希を自宅に到着してすぐにベッドに寝かせる。
あっという間に寝入った祐希のせいで、何もやることがなくなった俺はキッチンに向かい、なんとなく冷蔵庫を開けた。


『鮭もあるし、野菜も結構あるし・・・石狩鍋だな。』

佐橋さんと結婚についての具体的な話でもしているであろう伶菜が帰宅してバタバタしなくてもいいように冷蔵庫の中にある材料を使って夕飯を作ることにした。


伶菜達と暮らし始める前には、ほぼ新品に近い状態だった土鍋。
手軽でよく温まり、そして色々とアレンジできる鍋料理が好きな伶菜のおかげで、使い込みつつあるその土鍋の底には鍋スープの色素がうっすらと沈着している。


『鍋なんて、ひとりだった頃は作りたいなんて思ったこともなかったのにな・・・・』


苦笑いをしながら、冷蔵庫から取り出したえのき茸にザクリと包丁を入れる。
祐希がベッドで昼寝をしていてくれることもあって、鍋作りは順調に進む。

ついさっきまでいたカフェでのやり取りにおける自分の不手際について考え込まなくても済むぐらい集中できている。
材料を全部鍋に入れ終えて、後は煮込むだけという状態になったぐらいで、寝室から祐希の声が聞こえた。



『昼寝、終わったみたいだな。』


鍋スープが吹きこぼれないように火力を少し弱めてから、寝室から祐希を連れてくる。
そして、鍋を気にしながらも、リビングの床上に敷いてある絨毯(じゅうたん)の上に彼と寝転がって、ミニカーで一緒に遊んだりもした。


珍しく伶菜がいない自宅での男同士の留守番だったが、
祐希はぐずったりすることなく、機嫌よく一緒に居てくれる。

しかし、絨毯(じゅうたん)の上でゴロゴロしながら遊んでいた祐希が突然立ち上がり、キョロキョロし始める。

鍋スープの味を確認していた俺が彼の動きを目で追い始めたその時、

「ただいま・・・・」

いきなり伶菜がリビングに入ってきたことに驚いた。




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