ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
「日詠先生♪どうする?この男、結婚詐欺とかで一発、訴えちゃう?かなり頭の切れる弁護士の知り合いがいるけどどうする?伶菜は優しいから絶対そんなこと言い出さないと思うけど・・・」
先を急いでいる様子のお兄ちゃんへ水を注すように真里が意地悪そうな笑みを浮かべながら訴えた。
康大クンがしようとしていたことは本当に頭にくるけれど、
康大クン相手に訴訟とか、そんなことできないよ
一度は本気でスキになった相手だから
「面倒くさいから・・・やらなくていいかな・・・」
「え~。この男、ちょっと痛い目に合わせたほうがいいですよ。」
「そんなことに時間を費やすぐらいなら、眠る時間が欲しいからね。」
お兄ちゃんはいつものあの少年のような屈託のない笑顔で真里に返事をした。
お兄ちゃんの中で沸きあがった康大クンへの怒りは
きっとさっきのゲンコツ一発に込めて終わりにしちゃったんだ
お兄ちゃんは優しい人だから?
それとも
私の気持ち、覚ってくれたから?
「それじゃ、そういうことで・・・・伶菜、今度こそ本当に行」
『待って、お兄ちゃん・・・・』
先を急ぐお兄ちゃんに今度は私が水を注した。
康大クンに伝えておかなきゃいけないそんなことがあるから。
『康大クン、私、本当にアナタのことが好きだった。でも、その想いはもうどこかへ行っちゃってた。お兄ちゃんが私に居場所を作ってくれたから。』
「・・・・・・・・」
康大クンは語りかける私と目を合わせることなく、無言で俯いている。
彼が私の言葉を聞いてくれているのか、そうではないのかわからなかったけれど、私はここで自分が伝えたいことを止めようとは思えなかった。
裏切られたという想いだけを抱いて、康大クンからこのまま離れたくなかった。
以前は本当に大切だと思っていた相手だったから。
そして、祐希と血の繋がった父親である人だから。