ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



退院前日の産婦さん達への病院からの、このご褒美
それは生まれて間もない赤ん坊と自宅へ帰る彼女達へのエールでもあったりもする

『お祝い膳・・・か。』


まだ妊娠中の伶菜も、時間が経ち、出産を終えると
そのうちこういう形での退院を迎える


でも、伶菜はその前に
分娩するまで腹の中で胎児を育てる
そして
胎児が赤ん坊としてこの世に現れた時に、その手でちゃんと受け止める

その準備をするための退院だ・・と主治医らしいことを考えることに躍起になっていた俺。
気がつけば、伶菜の病室の前まで来ていた。



病室へ足を踏み入れると、伶菜のベッド周りのカーテンが大きく開いていて、彼女は白飯の盛られた茶碗を手にしたまま渋い顔でそれを凝視している。
彼女が自分に気がついていないのをいいことに、しばらくその様子を眺める。

茶碗に箸を近づけるも、大きく溜息をつき、箸を離す
他のおかずを食べてから、もう一度白飯に箸を向けるも
眉をしかめてから箸をトレイの上に置き、茶を飲む


嫌いなものを食べるのを躊躇う子供のように見えて、つい口元が緩むが、おそらく悪阻の影響と思われる様子なだけに

『白い飯、やっぱり嫌か?』

笑っちゃいけないと口元を引き締め、声をかけた。

白飯と闘うのに一生懸命だったのか、彼女は驚きながら俺を見上げた。
顔を赤らめながら、少々どもり気味に返事をした彼女。


俺が背中から彼女を抱きしめてから、こういう表情をよく見かけるような気がする
彼女は俺がずっと捜していたことなんか知らないだろうから
いきなり抱きしめられたりすれば当然俺のことを警戒したりするだろう

驚かせてしまったんだな・・と反省しながらも
その時に感じた彼女の温度が今でも自分の中に残っていることに密かに感動したりもする
・・・ずっと捜していた人だから

こうやって自分本位の行動を正当化するとは、なんとも情けない俺




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