ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋


そのまま俺が誘導されたのは、宴会場の奥にあるウエディング衣装が飾られているショップ。


「こちらでお好きなものをお選び下さい。」

着替えを用意してあると聴いて、すぐに手渡してもらえると思っていた俺は、膨大の数の衣装に言葉を失う。


そんな俺の様子を察したのか、

「あら~いらっしゃいませ~。良さそうなものを私が見繕いましょうか?」

ショップ内にいた女性スタッフが声をかけてきてくれた。



『こんな遅くに申し訳ないです。しかも、こんな格好で。』

「いえ、水も滴るいい男って言うじゃないですか~!!!!それに、おめでたいことなんですでしょう?」

『・・・ええ、まあ。でも、彼女にまだ詳しく事情を話していなくて。』


俺が躊躇(ためら)いがちにそう答えると、その女性店員は何かを想い出したような表情を浮かべ、俺を足の先から頭のてっぺんまで舐めるように見上げた。


「そういうことでしたら、大丈夫ですよ。お相手様も今頃、連れて行かれた場所で、どういうことなのか察していることでしょうから・・・・。だから、急ぎましょう。」

『ええ。でも、衣装とか、どれを選んだらいいか・・・そういうのはどうも疎くて。』

「もう~。イケメンなのに格好とかにこだわりがないとか・・・自然体で素敵!!!!!そういうことでしたら、私におまかせ下さい!!!」


そう言いながら、沢山並べられた衣装の中から、いくつか手に取って、机の上に並べてくれた。
そして、突っ立ったままの俺にそれらを代わる代わるあてがいながら、”この色だ~” と見立ててくれる。

その勢いの良さにやや後ろのめりになりながらも、勧められた衣装はよくあるコテコテの結婚式の衣装ではなく、品の良さが際立ったもの。
拒否する理由が一切なかったので、そのまま受け取り、案内された試着室で早速着替える。


「あら~、裾直ししなくても大丈夫そうですね。ネクタイもコレで良さそう。靴も準備しましたので・・・あまりお相手様を待たせてはいけませんから・・・行ってらっしゃいませ。」

押しがやや強めで頼りがいのありそうな女性店員に背中を押された俺は、ネクタイを手に持ったまま、店内にいたもうひとりの若手男性店員に導かれ、再び歩き始めた。



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