ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋


「シャワー室も備えつけられておりますので、どうぞご利用下さい。ここでお待ちしております。」

俺を案内してくれた男性店員が更衣室のドアを開けてくれた。
伶菜だけでなく、この人も待たせてはいけないと俺は急いでシャワーを浴びて、手渡されていた衣服に袖を通した。

「では、お連れ様のところへご案内します。」

ずっと待ってくれていた男性店員に軽く会釈し、彼の後ろを歩き始めた俺はワイシャツの襟を直したりと時計を腕につけたりと忙しい。



そのような状態で、こちらでお待ちですと案内されたのは、金色のノブが取り付けられたドアの前。
ひとりになった俺がゆっくりとそのドアを開く。
そこには淡い光の中、小さな白いブーケが取り付けられた参列者用の座席に腰掛け、瞬時に俺のほうに振り返りながら立ち上がった伶菜がいた。

『・・・伶菜・・・』

チャペルというこの場所に相応しい格好をした俺を見て、驚きを隠せていない彼女の元へゆっくりと歩み寄る。
何となく状況を掴みかけているけれど、それでもまだどう解釈したらいいのかわからない様子で俺を見上げた彼女。

『綺麗だ・・・』

ちゃんと説明してやらなきゃいけないのに、真っ直ぐな瞳でこっちをじっと見つめる彼女に心をぐっと掴まれたしまった俺は咄嗟に彼女の手を取った。


『ちゃんとしなきゃな。』


事情説明そして俺の想い

それらを
十字架の前で
神の真下で
きちんと伝えよう

それが

兄という立場であるという嘘をついた俺の
伶菜に対するせめてもの誠意だと思うから


俺は彼女の手を引いて、深紅のバージンロードを一歩ずつ彼女の歩調にきちんと合わせつつ、そこを歩く意味を噛み締めながら歩みを進めた。


俺達の今までを一緒に振り返りながら、
これからの未来へ繋がるような想いを
ちゃんと伝えればいいんだと心の中で自分に言い聞かせながら。


そして歩みを止めたのは、十字架の前に設置された台がある場所。
大理石のような石で造られた床の上に立ち、一旦、彼女の手を離して彼女と向き合う格好になる。

天井から降り注ぐ淡い光によって透明感が増している彼女の頬。
いつもはふんわりとした空気感が漂う彼女なのに、こういう場所で緊張している影響なのか、今は凜としている雰囲気。

そんな彼女は本当に綺麗だと思わずにはいられない。


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