ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Hiei's eye カルテ7:戻ってしまった色褪せた日常


【Hiei's eye カルテ7:戻ってしまった色褪せた日常】



午前10時過ぎ。
分娩後の処置をやり終えた俺。
まだ間に合うだろう・・そう思いながら走った。


それなのに、そこにいたのは
ベッド清掃をしている看護助手さん。


「あら~、日詠先生。なにか?」

『どうも。もしかしてここにいた妊婦さん、もう・・・』

「お世話になりましたっていい顔で挨拶して、お帰りになりましたよ。何か用事あったんですか?」

『いえ、無事に帰れていたら・・・それで大丈夫です。』



今朝、救急外来に向かう途中、白飯を頑張って頬張っている姿を通りがかりにチラ見したのが最後。
ここにはもう伶菜の気配がない。


『いなくてガッカリとか・・重症だな、俺。』

それを実感した俺。


『外来診察にも来る予定だし、それでいいだろ?』

「日詠先生?重症とか、大丈夫です?」

『あっ、大丈夫です。独り言ってヤツです。それじゃ失礼。』

もうなにか物足りなさを感じている俺。
伶菜に再会する前、俺が毎日何を考えてこの生活を送っていたのかと思ってしまうぐらいだ。


『勿体無いし、俺が飲むかな。』

消灯直前にも給湯室でホットミルクを作るのも俺の日常の一部になっていて、それを渡す相手が居なくなったせいで自分で飲むハメに。


『密かに、お礼の味とか・・・楽しみにしてたんだ、俺。』

ホットミルクをご馳走になったお礼にと、伶菜はいつもマグカップを返してくれる時に飴玉を1個、カップの中に入れてくれていた
その飴玉はレモンだったり、メロンだったり、いちごミルクだったりと毎日、違う味
それを口に放り込んでから、そのマグカップを給湯室の食器棚に戻すのも俺に日課になっていた

その日課も当然、今はもうない


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