江戸物語 ~雪月花の鬼~
「さてと…。コレはこっちかな?」


サクサクと朝餉の手伝いを済ませる雪花。

そこへ土方と近藤がやってきた。

近藤は雪花を見ると感心したようで


「ふむ、俺も手伝おう!!」


と、雪花に続いて朝餉の支度をする。

いつもより早く朝餉の支度が終わった。

女中が雪花と近藤の前でお礼を言った。


「すいません、隊士様に手伝わせてしまって…。」


「いや、「大丈夫ですよ。」…。」


近藤の言葉を遮り雪花は言う。


「先程も言いましたが私が好きでやったのです。
女中さんが謝る事なんてありませんよ。」


ふわりと女中に向かって微笑む。

その時の雪花の顔はとても綺麗だった。

雪花の笑顔を見て女中は少し驚きつつ、


「ありがとうございます。」


と、笑顔で返した。

それを見て少し微笑ましくなった近藤だった。

しかし、沖田はつまらない、とでも言うように
そちらからフイ、と顔を背けた。

相当雪花に負けたのが気に食わないのだろう。

朝餉が終わると1番に広間を出て行った。





そんな事に気づいたのは、土方、雪花の
2人ぐらいだった。






























数刻後…。


































流石に彼処まで言われて傷付かない雪花ではないが
過去を思い出し勇気を振り絞り沖田を探す。

ふと、中庭の方から音が聞こえた。

雪花はそちらの方へ歩みを進める。

影からこっそりと覗いてみる。

ビュオ!!

時々その様な風を切る音がする。

其処には沖田が一人で自主練をしていた。


(そういえば今日は1番組が非番だっけ…。)


雪花はそんな事を思い出しながら沖田を眺めていた。

そして再び考える。

今自分が話しかければ彼の邪魔になってしまい
更に自分は嫌われるのでは、と。


(沖田さんの好きな食べ物でも有れば…。)


そう思い、雪花は其処から離れた。


チラリと沖田が自分の方を見たとは気づかずに。
































「あの、山崎さん。」


雪花は人がいない所で山崎を呼ぶ。


「どうした?」


天井からひょっこり顔を出す山崎。

雪花はもう一度人が居ないか確認してから、


「沖田さんの好きな食べ物って知ってますか?」


と、尋ねた。

山崎は一瞬驚いた様な顔をしたが、
すぐに無表情に戻る。


「甘味…だな。」


「甘味、ですか。」


考える様な仕草をした後、
雪花は何故か固まってしまった。


「おい、どうした櫻坂。」


一応聞いてみる山崎。


「…私、お金なかったです。」


返ってきた答えに呆れた山崎。

ストン、と地面に降り立つと
懐から何かの紙を取り出した。


「これは?」


「非番の隊が日ごとに書いてある。覚えておけ。」


「…私って何番隊ですかね。」


一応独り言のつもりで言った雪花だったが
山崎にはそうには聞こえなかったらしい。


「おい櫻坂。お前自分がどこの組か覚えてないのか。」


呆れと怒りが混ざった声で尋ねる。

しかし雪花には届かなかった様で、
さも当然という顔で応えた。


「知りません。」


その答えを聞いた山崎の顔は凄い形相だったそうだ。
(雪花談)

山崎は雪花の襟を掴んで引きずった。

そしてとある部屋の前で立ち止まる。


「…山崎さんいい加減離してください。…ん?」


部屋の中を見た途端雪花は押し黙った。

何故なら其処は…
凄い形相の土方の部屋だったからだ。

目の下は隈ができ、目は充血している。


「…何だ山崎…。」


明らかに苛立っているのが目に見える。

しかし雪花はお構いなしに土方に尋ねる。


「土方さん、私って何番隊ですか?」


「…ああ?」


少し苛立ちながらも質問に応える。


「あー、お前のは決めてねぇから
今日は何処かで自主練するなり…いや、そうだな。」


何か思い付いた様で雪花と山崎の方に向く。

山崎が少し体を震わせたのは秘密…。


「山崎、街でも案内してやれ。
お前じゃなくてもいいが…。」


そう言い残して、土方は襖を閉めた。


「だ、そうですよ?山崎さん。」


雪花が襟を掴まれたまま山崎を見る。

山崎はため息をついて雪花から手を離した。


「ついて来い。」


と、一言だけ言って。






< 6 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop