いきなり図書館王子の彼女になりました

 多分、


 誤解だと思うんだけど!!





 急展開過ぎて、何からどう話せばいいか、さっぱりわからない!!!







「あの、話す前にちょっとだけ、席を外すね…」






 とりあえず逃げる。


 私は彼に断って、席を立った。





「はい。どうぞ」


 彼は、とてもにこやかに返事をしてくれた。
 明るくて話しやすそうな雰囲気の男の子だなあ…。


 一旦頭を、整理しよう。


 店の奥にあるトイレに行きがてら少し彼と距離を置いて、私は考えてみる事にした。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 先週の水曜日に、私は携帯電話で話しながら胡桃を誘った。



 八百洲ブックセンターで行われる神原彩架月先生のサイン会が、日曜日(今日)の午後2時から行われる。

 先生は超人気作家だから、早めに軽食を取ってから並んでおかないと、サインをもらえるまで何時間待たされるかわからない。

 だから、12時にカフェ『未来志向』集合に決めた。胡桃もファンの1人だし、サイン会には興味があるかと思ったのだ。
 
 サイン会の知らせがメールで届いた時、早く行動に移さなければと私は焦った。

 まず、申し込みが必要なのである。こういう催しは人数制限があるからだ。


 校内の携帯電話での通話は、固く禁止されている…が。

 でももう下校時間だし、私的にこれは緊急事態。そのため何卒今回ばかりは、どうか神様仏様、勝手な自分をお許し下さい…。


 誰にもバレない様にスピーカー状態にした携帯をポケットに隠し、校内を何気無く1人で歩いている風を装いながら、電話をかけた。

 何度かコール音が鳴り響き、胡桃が小声で出る。

『沙織、今どこにいるの〜?…まだ学校の中でしょ!どうして今電話してきたの?何かあった?』

 彼女は多分、部室棟の中だ。演劇部のミーティングが始まる前だから出られたのだろう。


 間一髪だった。

 
「胡桃、神原彩架月先生のサイン会、一緒に行かない?…早く申し込みしなきゃならないの」

「…え〜…あの、長蛇の列になるやつでしょ?…私は遠慮しようかな〜」

「…そんな事言わずに…。一人で並ぶの、寂しいよ」

 私は、話しながら何食わぬ顔で図書館の中に入った。

『霽月の輝く庭』の11巻を返して、12巻を借りなければならなかったからだ。

「お願い!」

 一緒に行ってくれそうな人は、あなたしかいない!!


『…いつ?サイン会』


「日曜日の12時に、カフェ『未来志向』に来てもらえない?」


 胡桃は何か返事をした様だが、良く聞こえない。

 電波が悪いのかも知れない。

 私はもう1度繰り返し日時を言った。

 胡桃はまた何か返事をしたが、その声は聞き取れなくなってしまった。

 チャットで会話した方が良かったかも…。

「…ちゃんと、聞こえてる?」


 胡桃はそれには答えずに、呆れた口調でこう言った。



『ホントに沙織は、神原彩架月先生が好きね〜』



「大好きなの…!!」



 だから、絶対にサイン会に行きたいの!!



「だから…お願い…!!私と、付き合って!!!」



 しばらくの、空白の後。




「…はい。わかりました」




 …やったあ!!!





 図書館の中で、思わず私はバンザイしてしまった。


 たまたまで書架の間で本を読んでいた教頭先生に、はしゃいでいるその姿を見られ、凄い形相で睨まれてしまった。


 私は慌てて、そそくさと図書館から逃げ出し、


『…沙織…どうしたの〜?』


 携帯電話の通話を慌ててOFFにした。



 ゴメン胡桃。また後でゆっくり話すから…!!



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 私はあの時の出来事を思い出しながら、トイレの個室の中で腕組みをした。


 う~ん、もしかすると。


 彼はあの時、図書館にいて…

 私の会話を聞いて、何かを誤解した…?!












 自分の髪形や服装が、突然気になり出す。

 まさか突然男の子とお茶することになるとは、夢にも思わなかった。思わず私はトイレの鏡に映る自分の姿を、隅々までチェックしてしまう。

 何の変哲もないセミロングの黒いストレートヘアーに、何となくブラシをかけただけの髪。

 アクセサリーなどは何一つ身に着けてこなかった。今日着てきた薄ピンクのコートとギャザーロングワンピースはお気に入りの一つだが、この季節にしては少し胸元が寒すぎる。

 …ただ存在するだけで華やかな彼と比べ、あまりにも地味すぎる自分を別の生き物に、今すぐ変えてしまいたくなってしまう。

 もう少し、外見に気を付けた方が良かったかも…。


 トイレを出て、こちらを背に白井君が座っている窓際の席へと私は向かった。

 テーブルには湯気を立てたもう一つのホットコーヒーが運ばれてきており、彼はそれを口に運びながら私を待っていた。


「お待たせしました…」

 私は再び元の、彼の向かいの椅子に座った。


「はい。お帰りなさい!」


 彼はにっこにこの笑顔で返事をしてくれた。

 何だろう、この爽やか美少年は。
 血統書付きの、真っ白い子猫を思い出す。

 思わずほんわかと、癒されてしまう。


 だ、ダメダメダメ駄目だよ。
 見とれていないで、ちゃんと話をしないと。


「えっと、白井君」


「司でいいです」


「じゃあ、…司君」


「はい!」


 幸せそうに司君は微笑む。
 すっかり彼のペースに乗せられている私。



「先週の水曜日の放課後、図書館で私…」


 彼は私の話を、遮った。


「はい。…嬉しかったです。告白」


 急に、その時の状況を彼は説明し始めた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 あなたは、僕の目を見つめて言いました。


「お願い!」


 僕はびっくりしました。
 
 いきなりあなたが必死な様子で僕に、こう言ったからです。



「日曜日の12時に、『未来志向』に来てもらえない?」



 僕は、あなたに聞き返しました。



「もう一度、言ってもらえませんか…?」



「日曜日の、12時。カフェ『未来志向』に、来て欲しいの」


 ああ、あの場所!

 ようやく、思い当たりました。

 八百洲ブックセンターの横に、去年新しく出来たカフェの事だと。


 日曜日、特に予定は無いし。

 …ずっと気になっていたあなたに、誘われたのです。
 
 絶対に行きたい!!と思いました。



「…ちゃんと、聞こえてる?」



 ボーッとしている僕に、あなたは聞こえているかを確認しました。

 もちろん、ちゃんと聞こえていました!


「………はい」


 心臓がどきどきと、音を立てました。
 だって、これってデートでしょう?




「大好きなの…!!」




 あなたは僕を真剣な表情で見つめて、
 その時告白、してくれました。





「だから…お願い…!!私と、付き合って!!!」





 
 …これは夢でしょうか。

 




 信じられなくて、幸せ過ぎて。
 すぐに返事が出来ませんでした。












「…はい。わかりました」










 やっと、言葉にできた。








 僕は、それしか言えませんでした。






 あなたは、





『 …やったあ!!!』






 という様な、可愛いポーズを見せてくれました。



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 私はまた、フリーズした。


 どうしよう!

 司君、やっぱり物凄く誤解しているみたい!!




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