心がささやいている
「でも飼い主さんにとって、お前は大切な家族の一員なんだもんな。お前だって早く飼い主さんに会いたいよな?」

辰臣は自分の気持ちを振り切るように、早々に行動に移すことにした。

連絡をくれた知人の元にあった張り紙を頼りに、そこに記載された住所を探して歩く。その張り紙には確かにその子犬の特徴によく似た犬の写真が小さく載せられていた。
片腕に子犬を抱えながら電柱に設置されている街区(がいく)表示板と住所を照らし合わせ、家を探す。そうして、かなり近くまで差し掛かった頃のことだった。
辰臣が何気なく足を止めた、その時。

「あっ!」

突然、今まで大人しかった子犬が腕の中から飛び出した。

「えっ?ちょっ…どうしたのっ?待ってっ!」

慌てて追いかけたものの、子犬は元来た道を駆け出して何処かへ行ってしまった。

(何で突然…?いったい、急に何が…??まだ傷だって完全に癒えた訳じゃないのに。あんな身体で無理して、また何かあったら…っ…)

辰臣は気が気じゃなかった。
元来た道を戻り、身を隠しそうな場所を片っ端から捜し歩いた。それでも、その辺りの土地勘に詳しくなかったこともあり、子犬捜しは困難を極めた。
散々捜し歩いても見つからず、とうとう日も傾き始め。半ば諦めモードに入り、途方に暮れかけたその時だった。

その少女と出会ったのは…。



ある公園の前を偶然差し掛かった時だった。

大きな樹が沢山植えられた緑の多い公園内のベンチに一人の少女がちょこんと座っているのに気が付いた。周囲には誰もいない、人気(ひとけ)のない公園内でその存在は何処か目を引いた。
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