心がささやいている
「だってよー、アイツどんくせぇんだもん。他のヤツはすぐに反応できるのにアイツだけ妙にトロいし、言うことは聞かねぇし。見ててムカついてくんだよっ」

そう言いながら、少年は足元に群がっている子犬たちを煩わしそうに足先で払った。すると、その中の一匹が「きゃん」と鳴き声を上げた。

「だからって乱暴にしていいって理由にはならないでしょ。…まぁ、あのコの動きがニブイのは認めるケドさ。その分、食事も他のコに取られちゃってたから余計に成長が遅れてるっていうのもあるんだろうけど…」
「だから言ってんだろ?この世は弱肉強食なんだって。所詮弱い者は、どのみち生きていけねぇの。それをオレはアイツに教育してやってるってだけだ」
「うわー、思いっきり正当化してるし…」
「このオレの優しさがわかんねぇかなー?愛だよ、愛。アイツはそんなオレの愛情から逃げたんだよ。縁がなかったってことだ。そんなヤツ、ウチにはもういらねぇよ」
「…なぁんだ、やっぱ自分が原因だって分かってるんじゃん」

そうして二人は笑いながら公園内を横切っていく。どうやら散歩の途中らしく、公園内をただ通り抜けて行くだけのようだ。
遠ざかっていく声と姿を見送りながら。辰臣は腕の中の小さな存在をそっと撫でた。
子犬の様子と彼らの話を聞いていて解ってしまった。おそらくあの二人は、このコの飼い主なのだろう。
不安そうにこちらを見上げて来る子犬に。

「…つらかったな」

辰臣は眉を下げると小さく呟いた。
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