心がささやいている
その後は、何だかんだと三人で話が盛り上がり、あっという間に時間が経過してしまった感じだった。いや、『三人で話が盛り上がって』…というのは少し語弊(ごへい)があるかも知れない。殆ど会話の中心にいて盛り上げていたのは辰臣だからだ。
辰臣は、ちょこちょこと席を立って仕事をこなしながらも会話を止めないので、話の区切れがなくて彼女の方が上手く帰るタイミングを切り出せなかっただけかも知れない。
だが、月岡はランボーに向けた微笑みとまではいかないものの、終始穏やかな様子で話に耳を傾け、時にはしっかり受け答えをしていた。

そんな中、先程電話が掛かって来たことで話が中断し、今も電話で何だかんだと対応している辰臣を見て、月岡がゆっくりと片付けを始めたので、それをやんわりと止めて助け舟を出してやる。

「あとは俺がやっとくから、そのままでいい。帰るんだろ?」
「うん、ありがとう。…ご馳走様でした」

外はすっかり暗くなっていた。
すると、丁度電話を終えた辰臣が、こちらの様子に気付いて慌てて声を掛けて来た。

「ごめんねっ。すっかり陽が暮れちゃったね。颯太、彼女を送ってってくれるかな?実は、これから急患が入っちゃって」
「ああ、分かった」
「あっ…私の方は大丈夫です。ウチ、ここから近いので」
「いやいや、遅くまで引き留めちゃったし。こんな暗い夜道での女の子の一人歩きはダメ。颯太、お願いね」

そう言って、有無を言わせぬ笑顔で月岡を黙らせた辰臣は、「今日はありがとうねっ。また懲りずに顔出して」…なんて言いながら急患を受け入れる準備の為に奥へと消えて行った。
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