心がささやいている
当然、そんな作られた『理想像』より良いという意味で、だ。

自分が耳にしていた彼女の像はというと…。
他の女子たちのように笑ったりはしゃいだりすることは殆どなく愛想も良いとは言い難いが、そんな媚びない大人っぽさが魅力なのだとか。
あまり人と群れず、一人静かにたたずむ様子が(はかな)くて寂し気で。どこか陰があるところがミステリアスでたまらないだとか。
同学年の女子たちより妙に艶っぽく見えるのは、実は大人の恋愛経験値が高いからではないかとか。だから、きっと同級生の男たちになんかに目もくれないのだろうとか。
…などなど、本当に何の根拠もない噂話。特に最後のなんかは言いたい放題だ。相手にされない男たちのヒガミ以外の何ものでもないだろう。

何にしても、学校では笑わない冷たい彼女のイメージからして、意外な面であることは間違いなかった。

(まぁ、動物は人の内面を見抜くというし…。悪い奴ではないってことだな)

別に何を疑っていたとかではない。ただ、辰臣が妙に肩入れしていたから色々な意味で心配していただけだ。あとは、少しの興味ってとこ。
そんなことをぼんやりと考えていた時、辰臣がいつの間にやら奥から飲み物を用意しながら声を掛けてきた。

「咲夜さん、折角来てくれたんだし是非お茶飲んで行ってよ。ホラ、颯太も。いつまでもそんなとこ突っ立ってないで荷物置いておいで」

そう言って、にこやかな笑顔を浮かべながらクリニックの端に設置してある小さな喫茶スペースにお茶とお菓子を並べている。

「あ、辰臣さん。ゴメン」

普段、ここに来たお客等にお茶出しをするのは自分の役目なので、慌てて荷物を置きに奥のロッカーへと向かった。
< 51 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop