心がささやいている
いつまでも濡れたままでいては風邪を引くということで、一息ついた後早々に二人
は解散した。

辰臣と別れた後、ひとり夜道を歩きながら颯太は考えていた。


俺は本当のことを辰兄に伝えなかった。

『私、実は…。人の心の声が聞こえるの』

月岡は人づてに聞いた噂話などではなく、本人の心の声を聞いたのだと言った。自分は表面上では知ることの出来ない、隠された『本心』とか『本音』とか、そういうものを聞くことが出来るのだと。
思い詰めたような顔で突然そんなことを話しだした月岡に、俺は最初当然のことながら面食らった。だけど、彼女がそのことを口にすることにかなりの勇気を必要としたのだということだけは、その表情からすぐに解った。

「心の、声?」
「そう。人が思ってること、頭の中で考えてることが分かるの」
「…おい。それって…今、俺が考えてることも分かるってことか?」
自然と身構えてしまった俺の様子に月岡も気付いたのか、少しだけ傷ついたような瞳を見せたが、それでもふるふると首を横に振った。
「全部じゃない。でも、その人の外に出せずにいる強い思いとか気持ちみたいなものが声になって聞こえてくることがあるの」
「外に出せずにいる気持ち…」
「気味悪い…でしょう?でも、本当のことなんだ…」

そんなことがあるのだろうか。そう驚きながらも、どこか「そういうことか」と納得してしまっている自分がいた。

「それって…」
「え…?」
「その声が聞こえたのって、俺がお前に声掛けた時か?」
「…えっ?」
「お前に『怖い顔してる』って言った時なんじゃないのか?」
「あ…。うん、そう…だった、と思う」
「やっぱりか」
「…幸村くん?」

今まで月岡に感じていた違和感が繋がったような気がした。
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