心がささやいている
「え…?」

意外だった。大空さん至上の彼のことだ。大空さんには、ありのままを伝えるものだとばかり勝手に思い込んでいた。けれど、続けられた幸村くんの言葉は、そんな私の予想を遥かに超えたものだった。

「お前が今まで『その能力』のことを、どれだけの人に話してきたかは知らないけど…俺に言うのも、それなりに勇気がいったんだろうなってこと位は見ていて分かったからな。あまり、大きな声で言いふらせるような内容(こと)でもないし、今まである程度自分の(なか)に抱え込んできたものなんだろ?そんな風にお前が意を決して口にした秘密を俺が簡単に人に言えるワケないだろーが」


それは、衝撃だった。
まるで一陣の風が…吹き抜けていくような、そんな感覚。

本当なら向けられて当然と思っていた否定も、軽蔑(けいべつ)も、拒絶も。全てを受け入れる覚悟で私は彼に伝えたし、今日ここへも足を運んだ。だけど、幸村くんは私の言葉を疑うことも否定することもせず、逆に尊重してくれている。ましてや、そんな私の気持ちまで気遣ってくれている、なんて…。

(そんな風に…考えられる人もいるんだ…)

いつかの母の言葉が頭を()ぎる。

『あの子のあの目…。何もかも見透かされてるみたいで苦手なのよ。あの目に見つめられていると本気で気が狂いそう。もう、耐えられないのよっ』

私の能力を正確に知っていた訳ではないだろうけど、母の場合は分かり易い程の『拒絶』だった。
全ての人の反応が母と同じだと思っていた訳じゃない。だけど、何でもないことのように自然に受け入れてくれる人がいるなんて思ってもみなかった。

「幸村くんは…優しいんだね…」

思わず涙が(あふ)れそうになって。でも、こんなことで突然泣かれても彼が困るだろうと思い必死に耐えた。
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