2度目の初恋
ウゥ………



視界が少しずつ白くなっていく。



「公平!」



「公平!起きたか!」




「公ちゃん!」



「ここは………」



「事故に遭って1週間目を覚めなかったのよ。」



「本当に覚めてよかったわ…」



「誰………?」



「え?」


「みなさん誰で…すか………」



「公平、どうした!?」



「公ちゃん!」



「コウヘイって誰…ワァァワァッァワッ!!!!!!!!!」




「公平!落ち着け!!」



すぐに医師がきて、いろいろ検査された。



40代くらいの女性と少し上くらいの男性と俺と同い年くらいの男性2人の計4人が医師と話す。



俺はなんで病院にいるのか、目の前に居る人たちは誰なのか。



というか



俺の名前は?家族は?



なにがどうなっているんだ…



しばらくして


「公平、私は母の山田 菜都子というわ。」



「俺は山田 泰成。」



「俺は山田 玲央。」



「あなたの名前は山田 公平っていうの、私たちは公ちゃんの家族だからね。」



「家族…」



俺はどうやら家族を忘れたらしい。



「お父さんはもう少しで来るからね。」



「ウゥワァァァァワッァァァッッッ!!!」



「公ちゃん!!!」



頭が痛い。目の前が回っている。何が起こっているんだ…



なんで俺は病院にいるんだ…



しばらくして頭痛が治り、父らしき人も来た。



また頭が痛くなる。



泰成が心配する。



「俺は公平のそばに居るからな。」



背中をさすってくれている。



退院する前



医師から呼ばれて



「事故起きた時、想い出せる?」



「いや思い出せないです。」



「あした退院してこれから治療を行っていくんだ。薬や話聞いて少しずつ記憶を取り戻せるようにしていくからね。」



「わかりました。」


冷静を装っているけど、俺の頭の中は大パニック状態。



それで退院して家に戻った。



自分の部屋に入って、飾ってある家族写真や賞状やメダルを見る。



なんの賞かわかんないし家族とどこに行ったか忘れた。



そもそもなんで事故に遭ったかもわかんない。



パニックになり頭が痛くなる。



ちょうど玲央が入ってきて、大丈夫か!?と言い、俺に薬を飲ませて寝ようとしたが



全く寝れない。



寝れないまま朝になり



朝食を食べる。でも、いざキッチンにあるテーブルを見ると気持ち悪くなり、部屋で食べた。



母は小児科医で、いろんな医師を知っているのか、



「公ちゃんが担当する先生は私の昔からの知り合いですごくいい先生だから安心してね、学校には事情を説明してしばらくお休みすることにしたから。」



俺は「うん」しか言えなかった。



そして、治療が始まった。



幼少期のことや最近のことを聞いてきたが、全く答えられなかった。



正確に言うと、7歳から16歳まで9年間の記憶がないことがわかった。



自分がなにで遊んでどこの学校に通っていたのか、家族となにをしたのか。



なにもかも覚えてない。



そのことを解離性健忘というらしい。


俺は記憶喪失になったんだ。


でも、事故後のことは記憶できるし、言語は忘れていないから良かったと思った。



次の日から、催眠を用いた治療がはじまった。



事故当日のこと、家族のことなどをいろいろ聞かれた。


全く答えられない。


家では、しばらくは倦怠感と睡眠障害で安静していた。


家にはお手伝いさんがいて、全てやってくれるからありがたい。



そして、優しくて話し相手になってくれた。写真でいつどこに行ったか、俺は小さい時どんな子だったか時間をかけて教えてくれた。



泰成と玲央は2人とも大学生で埼玉にある大学に通ってて家にはいないけど毎日メールしたり電話したりしている。



父もよく俺の部屋に来て様子を見に来てくれる。



でも、父の顔を見るとなぜか頭が痛い。



なんでだろう。それはまだわからない。



事故から6ヶ月。



もう12月なった。もう1年も終わりだ。



泰成と玲央は冬休みで帰省していた。



欠けている記憶は取り戻せないまま。



朝、階段から降りると俺以外の4人が朝ご飯を食べていた。



そしたら、



頭をハンマーで叩かれるような激しい痛み。



目の前がぐるぐる回っている。



俺が目を覚ましたときと同じくらい気持ち悪さに襲われた。



「公平!?」


「公ちゃん!!!」


俺は倒れた。


目が覚めたら、病院にいた。


「公ちゃん!目が覚めたのね!!」


「う、うん…」



そして、俺はなぜ、こうなったのかが分かった。



「俺思い出した。なんで事故に遭ったのか。」



「俺は、実の息子じゃない。しかも5億もらってその代わりに俺をもらって育てたけど、俺は実の息子じゃないから、会社を継がせない。俺が高校卒業したら俺を見放すと言ったのを俺が聞いたから、外に出て、海に向かって走っているときに車とぶつかったんだ。」



「そうだ。」



「公平、つらくないか?お前は俺の弟だからな。」



泰成が優しい声で言う。



「公平」


「悪かった。俺が悪い。会社のことばかり考えてて冷たいことを言ってしまった。事故後、泰成や玲央から公平も家族だから、見放したりしたら俺らも縁を切ると言われたんだ、菜都子にも怒られた。気づくのが遅かった。本当に俺が悪いんだ。ごめんな、公平。公平も家族だ。そして記憶を取り戻してくれてありがとう。」




母は俺を抱きしめながら泣いた。



父の顔を見たら、父も泣いていた。



俺が取り戻したすべての記憶の中では父が泣いている姿は見たことがない。


もしかしたら、記憶の中にない9年間で父が泣いたかもしれないけど。



でも、俺の記憶の中では初めて見た、父の涙だった。
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