旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

 仕事上で、リーダーの私に相談しなきゃならない急ぎの案件でもあるのだろうか。私は座るのをひとまずやめて、どこか思いつめた表情の千葉くんを見つめる。

「今……エレベーターに乗り合わせた女性社員たちが噂してたんですけど」

 走ってきた彼は息が上がっていて、肩を上下させながら話し始める。
 噂……? いったいなんの話?
 思わず眉根を寄せた私に、千葉くんは思いがけないことを尋ねた。

「本当なんですか? 統括本部の海老名さんと結婚したって」
「えっ……?」

 一瞬なにを言われたかわからず、ぽかんとして聞き返す。
 私とエビが結婚……? なんなのその根も葉もない無責任な噂は。

「……ちょっと来てください、こっち」

 千葉くんは苛立ったように言うと、私の腕を掴んで無理やり歩きだす。

「ま、待って! どこ行くの!?」
「落ち着いて話せる場所です」

 そう言いながらオフィスを出てずんずん廊下を進んでいき、ベンチと自動販売機の置かれた小さな休憩スペースまで来ると、千葉くんはようやく私の腕を離した。

 私たち以外誰もいない静かな空間でジッと見つめられると、気まずくて仕方がない。

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