旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

「ない」と断言する前に、エビの強い腕が私を抱き寄せた。突然の強引な行動に、逞しい胸に押し当てられた顔がかぁっと熱くなる。

 ……な、なんでまたこんなに接近して……!

「一カ月でいいから、俺にチャンスくれ。実際に結婚生活を送ってみて、嫌だったら一ヵ月後に別れればいい」
「勝手に話を進めないでよ……。私はまだ、結婚を了承したわけじゃ……!」
「その間に、お前を必ず落としてみせるから」

 そっと体を離した彼がまっすぐな瞳で私を見下ろし、力強く宣言した。不覚にも胸がドキンと跳ね、目の前にいるエビが、なぜかいつもと別人のように見えた。

 エ、エビって、こんなにカッコよかったっけ……? 容姿が整っているのはわかってたけど、男性として意識したことなんてなかったから、調子狂う……。

「ちょ、ちょっとひとりで考えさせて……?」

 私は困り顔でエビを見上げてそう頼んだ。今は混乱しすぎていて、冷静に返事ができない。

「……わかった。つか、もう時間もないしな。今日もがんばれよ、リーダー」

 エビの方は簡単にオンとオフを切り替えたらしく、腕時計を見て始業時間まであとわずかだと悟ると、私の肩をポンと軽く叩いて先に休憩スペースを出ていった。その姿が見えなくなると、私は額に手を当ててため息混じりに呟く。

「なんなのよ、突然の甘海老モード……」

 その理由にまったく見当がつかないまま、私はふらふらとオフィスに戻っていった。

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