旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
『まさか、今さら惚れたのか……?』
あえて口に出してみると、頬がぼっと燃えるように熱くなった。
これは……やはりそういうことなんだろうか。確実に胸の高鳴りを感じてはいたものの、俺は生まれてこの方一度も本気の恋愛をしたことがなく、確信が持てない。
そこでふと思い出したのが、さっき冗談半分で彼女が署名した婚姻届だった。しまっておいた場所から再度取り出してぼんやり眺めると、父親の声が頭の中に響いた。
『――隆臣。三十歳の誕生日までに、ちゃんと結婚相手を見つけるんだぞ』
……誕生日は来月だ。許嫁に婚約破棄をされた今、俺には時間がない。それに……カニに対して甘く切ない感情がこの胸に芽吹いているのは、決して気のせいではない。俺はそれを、もっと成長させてみたい。
もしかしたら俺にも、愛のある結婚ができるかもしれない。
『結婚するか……海老と蟹で』
婚姻届上の彼女の名前をそっと指で撫でながらそう呟き、俺は勝手に入籍の意思を固めた。すると不思議と胸が穏やかな気持ちで満たされ、ようやく安らかな眠りにつくことができるのだった。