愛され秘書の結婚事情*AFTER
 そんな夫をクスクス笑いながら見つめ、七緒は一言、「悠臣さんて、カッコ良くて可愛いですね」と言った。

「可愛い? 四十二になるこのオッサンが? 君は本当に変わってるな」

「変わっていませんよ。女にとって好きな男は、幾つになってもずっと可愛いんです」

「そういうものかな」

「そういうものです」

 澄まし顔で答えた後で、七緒は悠臣の顔を至近距離で覗き込み、言った。

「私は日本の神様と西洋の神様の両方に、辛い過去も含めて、あなたを愛すると誓いました。だから、時にはこんな日があったっていいんです。フラッシュバックが起きたなら、その時は私があなたを支えますから、安心して下さい」

「七緒……」

 ジンと感動した顔で、悠臣は我が妻を見つめた。

 いつの間にか陽が沈み、部屋は自動点灯したオレンジの明かりに照らされていた。

「ありがとう……。じゃあ夕御飯のあと、またしてもいい……?」

 甘えるような男の言葉に、しかし七緒は笑顔で「ダメです」と即答した。

「明日は悠臣さんのお友達に、ホームパーティーに誘われているでしょう。これ以上調子に乗ると、明日起きられなくなりますよ」

 すでに秘書を引退したものの、そのスケジュール遂行への情熱は失われておらず、七緒はキッパリした口調で言った。

「あんまり駄々をこねると、今日は別のベッドで寝ますよ、私」

「えっ! や、それは止めて……」

 仰天した悠臣は情けない顔で右手を上げ、「わかった。今日はもう、悪さはしません。大人しく寝ます」と宣誓した。

 七緒はクスリと笑い、「はい、そうして下さい」と言った。

 上機嫌でシャワールームに消えた彼女を見送り、悠臣はハァと短く息をついた。

「すでにもう、尻に敷かれる未来しか見えない……」

 けれどその未来予想図は、けして格好良いものではないものの。

 今の自分達を象徴するように、暖かで柔らかな光に縁取られている気がして、彼は「ま、いいか」と呟いた。

 そして彼女のびっくりした顔を見るために、自分もいそいそと浴室へと向かった。

 その顔は晴れ晴れと明るく、何より誰より、幸福色の輝きに溢れていた。



 FIN
< 38 / 38 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:94

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

愛され秘書の結婚事情

総文字数/124,009

恋愛(オフィスラブ)299ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
恋愛よりも仕事 今の秘書の仕事が好き 会社が好き 三十路を目前に控えた佐々田七緒は そんな今の自分に満足していた だけど 三十歳の誕生日が来たら 仕事を辞めて 故郷に戻って 見合いをしなくちゃいけない 父親との約束だから 本当は嫌だけど すごく嫌だけど ……仕方ない そう思っていた そんな彼女に救いの手を差し伸べたのは 彼女の上司 穏やかで 優しくて 賢くて 紳士 そんな桐矢常務の突然のプロポーズに 七緒が出した答えとは……

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop